(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金として数千万円の貯蓄があれば、ひとまず安心――そう考える人は少なくありません。実際、退職金や長年の積み立てによって一定の資産を築いた世帯は多く存在します。しかし、老後の生活は単に「いくら持っているか」だけでなく、「どれくらいのペースで減っていくか」によって大きく左右されます。見えにくい支出や環境の変化が重なると、その前提は静かに崩れていきます。

「自分で稼げる安心がほしい」…64歳妻 “もう一度働く” 

冴子さんが働くことを考え始めたのは、家計の数字以上に、「不確実さ」への不安が大きかったといいます。

 

「今は何とかなる。でも、この先どうなるかは分からない。その不安をずっと抱えているのが、しんどくなってきて」

 

特に気になったのは、医療や介護の費用です。

 

高齢期には医療・介護支出が増加する傾向があり、長期的な備えの必要性があります。平均寿命が延びるなかで、「何年生きるか分からない」という不確実性は、家計に大きな影響を与えます。

 

「貯金が減っていくのを見ているだけではなく、自分で少しでも補える方が安心できると思ったんです」

 

しかし、30年以上働いていなかった冴子さんにとって、再就職は簡単な選択ではありませんでした。

 

「最初はすごく迷いました。今さら働けるのか、どこに行けばいいのかも分からなくて」

 

それでも、ハローワークに足を運び、短時間勤務の求人を探し始めました。

 

内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によると、65〜69歳の就業率は50%を超えており、高齢期でも働く人は増えています。特に女性の就業率も上昇傾向にあり、「年齢を理由に働けない」という状況ではなくなりつつあります。

 

「同じくらいの年齢の方も多くて、少し安心しました」

 

現在、冴子さんは週3日のパート勤務を始めています。収入は月に数万円程度ですが、「自分で稼いでいる」という感覚は大きな支えになっているといいます。

 

「金額よりも、“自分でどうにかできる”という安心感が大きいです」

 

誠一さんも、当初は戸惑いながらも、今ではその決断を受け入れています。

 

「無理してほしくはないですが、本人が納得しているならいいと思っています。結果的に、家計にも余裕が出てきましたし」

 

老後の安心は、単純な資産額だけで決まるものではありません。どれだけ備えていても、不安が消えるわけではないのです。

 

「働くことを選んだのは、お金のためだけじゃないんだと思います」

 

“余裕があるはずだった老後”は、少し形を変えました。しかしそれは、不安に流されるのではなく、自分たちで調整し直した結果でもあります。

 

「この選択でよかったと思えるように、もう少し頑張ってみます」

 

その言葉には、静かな前向きさがにじんでいました。

 

 

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