当面は金融緩和政策が継続か
FRBの利上げといっても、せいぜい0.1%程度でしょう。かりに0.25%上げたとしても、0.25%を4回上げてようやく金利は1%です。
FRBの目標は、短期金利の指標であるフェデラルファンドレート(金融政策による誘導目標金利)2%。巡航速度である経済成長率の2%を目指したいわけです。
しかしフェデラルファンドレートを2%にするためには前述のように、1回の利上げが仮に0.25とすれば、8回上げないといけません。FRBは、2015年12月に9年半ぶりの利上げ(0.25%)に踏み切りましたが、景気判断を引き上げたにもかかわらず2回目に踏み込めない状況です。
アメリカの経済は景気の回復はあるものの、それは極めてモデレート(ゆるやか)な回復であり、株価が今後も上昇するためには金融緩和もまだ必要かもしれません。すなわち米国も、当面の緩和の継続は間違いないでしょう。
2016年のように、なかなか第2、第3の利上げができない状態では、極めて低い幅の金利しか上げられず、2%の金利になるには相当な時間がかかります。
つまりアメリカ経済は、リーマンブラザーズ・ショック後の危機を乗り切りつつあっても、それはまだICU(集中治療室)から出て一般病棟へ移り、やっと自宅療養に入ったような段階。まだまだリハビリが必要なのです。しかし、トランプの経済政策次第では、2017年のアメリカ景気は、リハビリどころか退院ということになるかもしれません。
ひるがえって日本経済は、デフレ病が続いていていまだ一般病棟止まり。自宅療養にも至っていないのが実情。まだ入院中といっていいでしょう。
トランプ大統領誕生で、いま一番喜んでいるのは、ニューヨークのウォール街でしょう。ヒラリー・クリントンが大統領になれば、金融規制、富裕層への増税、オバマケアによる社会福祉負担増と、デフレ要因のオンパレードだったでしょう。
ところがトランプは、クリントンと正反対の政策です。法人税の大幅減税(35%→15%)、富裕層の所得税の大幅減税、株価・不動産市場の上昇に大歓迎という、いいことづくめなのです。
有能な金融・経済ブレーンを抜擢することができれば、2017年のアメリカ景気は急速に改善。株価・地価の上昇をともなった「トランプ相場」到来の可能性すらあります。
楽観・悲観シナリオから考える世界経済の今後
ここで、トランプ新大統領のもとでの2つのシナリオを検討してみることにしましょう。
①楽観シナリオの場合
2017年1月20日の大統領就任式を待たずに、トランプの金融・経済ブレーンが大幅減税や財政出動のプランをアピール。その後、プランを着実に実行に移すことで株価は上昇、夢の2万ドルを目指す。
好況到来を織り込んだマーケットが出現。
インフレ経済でドルはしっかりするが、1ドル110円前後を伺う展開。
日米ともに不動産ブームがやって来て、2020年の東京オリンピックに向かって、ストック・インフレ(資産インフレ)、バブルの様相を呈する。
日本株も、アメリカの好況、株高に連動して上昇する。
②悲観シナリオ
選挙期間中に喧伝していた政策を実行に移すプロセスで、通商、外交、安全保障などで日米関係が悪化。トランプの政治家としての未熟さが災いし、大幅な減税、財政出動によるアメリカの財政赤字が急増。ドルは急落し、アメリカ国債の信用が低下。世界の株式市場、金融市場は一段と不透明になり、日米ともに株価は低迷。さらにはユーロの信用不安、中国経済の長期低迷などによって、世界的な景気後退、長期停滞が続く。
2017年の世界と日本のマーケットは、楽観シナリオベースで動くのか、悲観シナリオベースで動くのか。遅くとも、2017年の4月末までには、つまりトランプ新大統領就任後の100日を経過したあたりで、かなりの確率でどの方向に向かっているか、判断できるのではないでしょうか。