(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親の住まいをどうするかは、多くの家族にとって避けて通れない課題です。転倒や体調悪化のリスクを考えれば、見守りのある環境へ移ることは合理的な選択に見えます。一方で、住み慣れた場所を離れることは、本人にとって大きな負担にもなります。安全性と生活の実感は必ずしも一致せず、その間で家族が判断を迫られる場面も少なくありません。

「一人で暮らすのは無理かもしれない」娘が感じた限界

都内に住む美奈子さん(仮名・54歳)は、母・和枝さん(仮名・81歳)の暮らしをどうするか、長く悩んできました。和枝さんは地方の実家で一人暮らしを続けていましたが、ここ数年で足腰が弱り、転倒も増えていたといいます。

 

「電話では“大丈夫”と言うんです。でも実際に行くと、部屋の中が少し荒れていたり、同じ食材が何個もあったりして」

 

年金は月8万円。持ち家のため家賃負担はありませんでしたが、生活には余裕があるとは言えませんでした。

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、高齢単身無職世帯の消費支出は月14.8万円です。年金だけで生活を完結させることは難しく、多くの世帯で貯蓄の取り崩しや家族の支援に頼る実態があります。

 

美奈子さんは仕事をしながら、月に数回は実家へ通っていました。食料の補充や通院の付き添い、役所手続きなどを担っていましたが、次第に負担は大きくなっていきます。

 

「何かあってからでは遅いと思うようになりました。夜中に倒れていたらどうしよう、とか」

 

そんな中で検討したのが、有料老人ホームへの入居でした。費用面の不安はありましたが、貯蓄と売却予定の不動産を合わせれば、一定期間は対応できる見込みでした。

 

最初に話を切り出したとき、和枝さんははっきりと拒否しました。

 

「ここでいい。知らないところには行きたくない」

 

それでも美奈子さんは説得を続けました。安全面の不安や将来の見通しを何度も説明し、見学にも連れて行きました。

 

「正直、押し切った部分はあったと思います」

 

最終的に、和枝さんは入居を受け入れました。

 

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