購入価格13億円超のタワーマンション2棟を、相続税評価額3億円台で申告する――かつては合法的な節税策として通用したこの手法が、最高裁によって否定されました。判決の根拠となった「財産評価基本通達6」とはどのようなものでしょうか。そして2024年1月から始まった新評価方式は、富裕層の資産承継にどう影響するのでしょうか。ゴールドオンライン新書『富裕層の資産承継と相続税 富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】』から一部を抜粋し、制度の背景と実務上の注意点を解説する。

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タワーマンション規制の背景――財産評価基本通達6のインパクト

相続税対策として広く利用されてきた「タワーマンション節税」に対し、最高裁第三小法廷は「財産評価基本通達6」の適用を認める判決を下しました。相続直前の購入や直後の売却といった積極的な節税行為により、通達評価額(評価通達に基づいて算定した金額)と時価に大きな「かい離」が生じた場合には、不動産鑑定評価額を基準とすることが妥当と判断したのです。

 

この判決はタワマン節税に大きな歯止めをかける一方で、通達評価と時価のかい離そのものが制度的な課題であることを浮き彫りにしました。

最高裁のタワマンへの判断

最高裁第三小法廷は2022年4月19日、タワマン節税に関して「財産評価基本通達6(以下「評価通達6」)」に係る判決を下しました。これによって相続人側の敗訴が確定しました。

 

「評価通達6」とは、どのようなものなのでしょうか。相続税法第22条では、「相続、遺贈または贈与によって取得した財産は、その取得時点における時価で評価し、そこから控除すべき債務額もその時点の状況に基づいて算定する」と規定されています。

 

ただし、同条文では土地や建物といった具体的な財産の評価方法までは示されていません。そのため相続財産(土地・建物・有価証券など)の課税価格を算定する際、課税庁が定める「財産評価基本通達」を参照するのが一般的です。

 

ですが、「評価通達6」には以下のような定めがあります。

 

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する」

 

つまりは行き過ぎた節税策には、この「評価通達6」を適用するとしています。

タワマン節税と「評価通達6」の適用

最高裁判例の中身をみていきましょう。被相続人(当時94歳)は、金融機関から借り入れをして、甲物件と乙物件の2件のタワーマンションを購入しました。

 

甲物件は相続開始の3年5カ月前に8億3,700万円(借入金:6億3,000万円)で、乙物件は2年6カ月前に5億5,000万円(借入金:3億7,800万円)で、それぞれ購入しました。そして乙物件は相続開始後、9カ月で売却されています。

 

相続人は乙物件を売却後に、相続税申告書を提出し、財産評価基本通達に基づいて評価を行った結果、両物件の課税価格は合計約3億3,370万円になりました。そして両物件以外の相続財産から、両物件の課税価格と借入金債務(約10億円)の差額である、約6億6,000万円を債務控除しました。

 

これに対して課税庁は、「評価通達6」を適用して、評価通達による通達評価額を認めず、不動産鑑定士による鑑定評価額に基づいた、更正処分等を行いました(課税価格の合計額は8億8,874万円)。

 

ちなみに、甲物件および乙物件の「鑑定評価額」「通達評価額」そして「相続後の売却額」は、[図表1]のとおりです。

 

出所:『富裕層の資産承継と相続税富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】』(ゴールドオンライン新書)より抜粋
[図表]「鑑定評価額」「通達評価額」「相続後の売却額」 出所:『富裕層の資産承継と相続税富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】』(ゴールドオンライン新書)より抜粋

 

もちろん、相続開始後に売却しなかった甲物件についても、課税庁は鑑定評価額で更正処分を行っています。これらの金額を比較すれば、甲物件および乙物件の「通達評価額」が、あまりにも低くなっており、時価(客観的な交換価値)は、「鑑定評価額」であることは誰の目にも明らかです。

 

そもそも時価の定義は、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」ですので、客観的な交換価値を示すものとしては、明らかに「鑑定評価額」に軍配が上がるでしょう。

 

通達評価額は、時価の評価方法を定めたものであり、相続財産等の時価を客観的に評価する際に用いるのは容易ではありません。また、納税者間で相続財産等の評価が異なるのは、課税の公平の観点から好ましくありません。

 

評価通達には、「行政先例法」が認められる場合もあります。行政先例法とは、行政において継続的に行われてきた先例が、国民の間で法としての確信を生むに至ったものをいいます。評価通達の基本的な内容は、長期間にわたる継続的な適用とそれに対する国民の法的確信の積み重ねによって、現在では行政先例法として扱われると考えられます。

 

そのため特別な理由がないのに、特定の土地について評価通達と異なる方法で高く評価することは、違法であると理解する人もいるのです。

 

多くの納税者は、相続財産の評価にあたって、国税庁の「財産評価基本通達」に基づいて計算を行っています。しかし、通達の評価額が時価よりも高い場合には、「評価通達6」が適用されることがあります。一方で、通達評価額が時価より低い場合に、課税当局の評価を否定することは、信義則に反する可能性があると指摘されています。

 

最高裁は、通達評価額よりも鑑定評価額が高くなる場合について、「鑑定評価額がその不動産の客観的な時価である以上、通達評価額を上回るからといって相続税法22条に違反するわけではない」と判断しました。

 

さらに、平等原則についても、特定の納税者だけが通達評価額を上回る評価をされる場合には原則として違法ですが、「通達評価額による画一的な評価が実質的な租税負担の公平に反する場合は、合理的な理由がある」としています。

 

具体的には、以下の条件が重なると「評価通達6」の適用が認められます。

 

●相続直前に取得した不動産や、相続直後に売却される不動産など、評価通達の適用が合理的でない場合

●鑑定評価額が合理的な評価額として存在する場合

●通達評価額と時価(鑑定評価額)に大きなかい離がある場合

●納税者の積極的な行為(購入・借入など)がそのかい離に影響している場合

 

しかしながら、評価通達の本質的な問題は、「評価通達6」そのものではなく、評価通達に基づく「通達評価額」が、「時価」との間で著しいかい離を生じさせることなのです。

 

それゆえに、評価通達の評価方法の見直しを行い、「時価」と「通達評価額」の著しい価額の格差が是正されれば、「評価通達6」を使う必要もなくなるでしょう。

 

このような状況を踏まえ、国税庁は2023年10月6日、マンションの一室の相続税評価の方法を新たに定めた「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」を公表しました。2024年1月1日以後の相続・遺贈・贈与により取得する財産に適用されます。

 

新通達では、マンション(居住用区分所有財産)の評価額を「区分所有権の価額+敷地利用権の価額」として算定したうえで、従来の評価額に「評価乖離率」および「評価水準」による補正を加える仕組みが導入されました。評価乖離率の算定には、①築年数、②総階数指数(総階数÷33)、③所在階、④敷地持分狭小度(敷地利用権の面積÷専有面積)の4要素が用いられます。

 

この補正により、高層・低築年のマンションほど評価額が市場価格に近づく方向に調整されます。なお、評価水準が0.6を下回る場合(通達評価額が市場価格の60%未満の場合)は、評価乖離率を乗じた補正後の金額が相続税評価額となります。

 

これにより、従来のタワーマンション節税の効果は大幅に縮小することが見込まれます。ただし、新通達の適用対象はあくまで「居住用の区分所有財産(マンション)」であり、一棟の建物や賃貸用不動産などには別途の評価方法が適用される点に留意が必要です。

 

※ 本記事は書籍の内容を抜粋・掲載したものであり、最新の法令・制度とは異なる場合があります。実務にあたっては必ず最新の情報をご確認ください。

 

 

八ツ尾 順一
税理士

 

 

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※本連載は、ゴールドオンライン新書で刊行された書籍から一部を抜粋・再編集したものです。

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