使わないことで生まれる、もう一つの問題
節約を続ける一方で、一郎さんの生活には変化も出てきました。
自宅の給湯器は老朽化していましたが、「まだ使えるから」と交換を先送り。冬場の寒さが厳しくなっても、暖房の使用を控える日もあったといいます。
「本当は替えたほうがいいと分かっているんですが、どうしても踏み切れなくて」
また、健康維持のために勧められた運動教室も、「費用がかかるから」と見送りました。
「お金がないわけではないのに、生活の質を下げている感覚はありました」
転機となったのは、地域の無料相談会でした。
ファイナンシャルプランナーに家計の状況を見てもらったところ、現在の資産と年金収入を前提にすれば、一定の取り崩しを行っても生活が破綻する可能性は低いと説明されたといいます。
「“使っても大丈夫な範囲”を数字で示してもらえたことで、少し考え方が変わりました」
あわせて、医療費の自己負担には上限(高額療養費制度)があることや、介護保険サービスも原則1割負担で利用できることなど、公的制度についても説明を受けました。
「すべて自分で背負わなければいけないと思い込んでいた部分があったのかもしれません」
現在、一郎さんは少しずつ支出の考え方を見直しています。
老朽化していた設備の交換を進め、以前よりも暖房も適切に使うようになりました。小さな旅行にも、年に一度は出かけるようにしています。
「一気に変わったわけではありませんが、“全部守る”だけでなく、“使うことも必要なんだ”と思えるようになりました」
資産を持つことと、それを安心して使えることは別の問題です。「お金はあるのに不安」という状態は、決して珍しいものではありません。むしろ、将来への見通しが不透明な時代において、多くの人が抱えうる感覚ともいえます。
老後の安心は、単なる資産額だけで決まるものではありません。制度や支出の見通しを知り、自分にとって無理のない使い方を見つけていくことが、結果として生活の質を支えることにつながるのかもしれません。
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