(※写真はイメージです/PIXTA)

次世代フードテックの投資先として期待を集める「培養肉」ですが、産業として確立させるには莫大なコストとエネルギーが必要不可欠です。本記事では、バーツラフ・シュミル氏の著書『世界はいつまで食べていけるのか:人類史から読み解く食料問題』(栗木さつき訳、NHK出版)より一部を抜粋・編集し、生産スケールアップに立ちはだかる技術的な壁など、投資家が知っておきたい「試験管ミート」の経済的・環境的な限界を解説します。

培養肉の産業化に必要なコスト

バイオリアクターの容量を段階的に増やしていく必要性に関しては、これまでの食料生産のプロセスとの基本的な比較をいくつかおこなえばいい。

 

従来の食肉のかなりの割合を代替する量の培養肉を商業生産するには、気が遠くなるほどのスケールアップが必要になることがわかるはずだ。

 

グッド・フード・インスティテュートの分析の対象となったモデル施設では、年間1万トンの培養肉を生産する予定だとしており、最大規模のバイオリアクターでは増殖させる細胞を1万リットル収容し、そこから2,000リットル規模の小型バイオリアクターに移し、分化・成熟をうながす。

 

これらのバイオリアクターの総容量は、現在、世界のバイオ医薬品産業全体で稼働しているバイオリアクターの総容量(約6,300万リットル)の3分の1弱を要するだろう。つまり、現在の世界の食肉生産量のわずか1%相当の培養肉を生産するために、このような施設が300カ所は必要になるのだ。

 

また製薬産業で、とくにワクチンを大規模に調製する際には、新たな種類の工業生産を開始するほどの手間と時間がかかる。

エネルギーの側面からも課題が残る

よって、その際に必要となるエネルギー投入量と比較してみよう。

 

これまでのところ、アメリカにおける試験管ミートの培養が環境に及ぼす負荷のもっとも詳細な予測によれば、当然のことながら農業資材や土地は家畜よりも少ししか必要としないが、その代償として、もっと集約的なエネルギー利用が必要になる。

 

それどころか、培養肉を生産する場合の単位重量当たり温室効果は、豚肉や家禽肉を生産する場合より高くなると予想されるのだ!

 

この研究結果は、世界の医薬品産業と自動車産業を比較したカーボンフットプリント(製品・サービスの原材料調達から廃棄、リサイクルにいたるライフサイクル全体を通した温室効果ガス排出量を二酸化炭素量に換算した値)の驚くべき分析結果から見れば、それほど意外ではない。

 

同じ分析モデルと同じ手法で評価した場合、カーボンフットプリントは医薬品産業のほうが自動車産業よりも(売上高100万ドル当たりで)約55%も高いのだ。

 

そのうえ、培養肉生産に大きな省エネ効果が期待できたとしても、まったく新しい種類の産業をスケールアップするという課題は残るだろう。

 

現在、世界の食肉生産量は年間3億トンを超えている。仮に試験管ミートがそのたった10%を供給するとしても、毎年3,000万トン以上を生産する必要がある。

 

ここでも製薬産業と比較してみよう。家畜用の抗菌剤(鶏、牛、豚に投与)の世界全体の生産量は年間10万トンに迫っており、家畜による抗菌剤の消費量は人間の約2倍であるため、2020年、人間と家畜を合わせた抗生物質の世界総生産量は年間15万トン規模だった。

 

したがって、年間3,000万トンを供給する新たな培養肉産業を世界規模で展開するには、過去4分の3世紀のあいだに発展した同種の産業である抗生物質の世界総生産量の200倍の規模をもつ、まったく新しい産業化の試みが必要になるだろう。

 

 

著者:バーツラフ・シュミル

カナダ王立協会

フェロー/マニトバ大学特別栄誉教授

 

翻訳:栗木 さつき

翻訳家

 

※本連載は、バーツラフ・シュミル氏の著書『世界はいつまで食べていけるのか:人類史から読み解く食料問題』(栗木さつき訳、NHK出版)より一部を抜粋・編集したものです。

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