40年ぶりに浮かんだ「働く」という選択
「このままだと、年金だけじゃ足りないと思う」
そう言ったのは、今年67歳で定年を迎えた夫でした。
都内近郊で暮らす山口さん夫妻(仮名)は、長年会社員として働いてきた夫と、結婚後は専業主婦として家庭を支えてきた妻(62歳)の二人暮らしです。
夫の年金見込み額は月およそ15万円。妻は第3号被保険者期間が長く、将来の老齢基礎年金は月6万円程度の見込みでした。
「合わせても月21万円くらいだ」
夫婦が想定していた老後の生活費は、月25万円ほどでした。家賃はありませんが、食費、光熱費、医療費、保険料などを合計するとその程度になると考えていたのです。
年金だけでは、月4万円前後の不足が出る計算でした。夫が「貯金を崩していくことになるよね」と言うと、妻はしばらく黙り込みました。
その日の夜になって、妻がぽつりと口にしました。
「私、働こうか」
結婚してから約40年、妻は専業主婦として家庭を支えてきました。子育てが終わったあとも、夫の転勤や親の介護などが重なり、外で働く機会はほとんどありませんでした。
「今から仕事なんてあるのかな」
そう口にしながらも、不安の方が大きかったといいます。
もっとも、60代女性が働くことは今では珍しいことではありません。総務省『労働力調査(2023年)』によると、60〜64歳女性の就業率は5割を超え、65歳以上でも就業する人は増え続けています。スーパーの品出しや清掃、事務補助、介護補助など、シニア向けの求人も一定数見られます。
「週に数日でも働ければ違うよ」
夫はそう言って、妻の背中を押しました。
