(※写真はイメージです/PIXTA)

シンガポールへの駐在が決まった夫に対し、「私はついていかない」と告げた32歳の共働き妻。世帯年収は約1,600万円。海外経験もあり、いわゆる“駐妻”になる条件はそろっていました。それでも彼女が帯同を選ばなかった背景には、キャリアと家族をめぐる現実がありました。

転勤族の家庭で育った記憶

杏さんの実家は転勤族でした。父親の仕事の都合で、幼いころから国内を何度も転々としたといいます。

 

母親は、国立の名門女子大学を卒業後にあるメーカーに就職。しかし、結婚と同時に仕事を辞め、父の転勤に合わせて暮らす道を選びました。

 

「母は不満を口にする人ではありませんでした。でも、転勤先でパートとして働くたびに『あのまま正社員で働き続けられていたら』と言っていました。それに母だって稼ぐ能力はあるのに父にはどこか遠慮していた。私は母のようにはなりたくないし、キャリアは絶対手放したくないんです」

 

杏さんはまっすぐな目でそう語りました。

共働きが当たり前になった時代

杏さんの選択は、決して特殊なものではありません。

 

内閣府「男女共同参画白書 令和7年版」によると、2024年時点で日本の共働き世帯数は、専業主婦世帯数の3倍以上に達しています。また、翔太さんの両親が口にした「妻は家庭を守るべき」という考え方についても、性別役割分担意識に反対する人の割合は男女ともに上昇傾向で、2016年の調査から反対する人の割合が賛成する人の割合を上回っています。

 

実際、株式会社ノヴィータと一般社団法人キャリアコネクトによる「『共働き時代の駐在』実態調査」では、駐在員パートナーの約7割が、帯同に伴い離職しており、キャリアの中断や就労再開へ強い不安を感じていることが明らかに。また、駐在の意思決定に「パートナーのキャリアが影響した」と答えた駐在員は過半数にのぼりました。

 

「応援したい」の意味が変わった

翔太さんは、杏さんの言葉を聞いたとき、「正直ショックだった」と言います。

 

「自分の駐在が、相手の人生を止めるかもしれないなんて、考えたことがなかった」

 

しかし話し合いを重ねるうちに、考えが変わっていきました。

 

「帯同してくれたらありがたい。でも、それが妻の“犠牲”の上に成り立つなら、それは応援じゃない」

 

最終的に2人は、単身赴任という選択をしました。実際に単身赴任生活が始まってみると、「思ったより順調」と口をそろえました。

 

「シンガポールはヨーロッパに比べれば近いので、半年ごとにシンガポールに私が行ったり、夫が帰国したりの生活です。普段の生活はほぼ一人暮らしですが、週末にその週にあったことなどをお互いに報告しあっていて、メリハリがついた生活が送れています」と杏さん。

 

共働きが当たり前になった時代。海外駐在をめぐる選択もまた、「家族の形」を映す鏡になりつつあります。

 

[参考資料]
内閣府「男女共同参画白書 令和7年版」
株式会社ノヴィータ、一般社団法人キャリアコネクト「『共働き時代の駐在』実態調査」

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