お金、記憶力、体が動くことの価値
さらに追い打ちをかけたのが、妻の体調不良です。命に関わる病気ではないものの、通院と投薬が続き、先の見通しは立ちません。
「もし自分のほうが先に死んだら、妻はどうなるのか。そればかり考えるようになりました」
そうして佐伯さんは、71歳にして再び働く決断をします。目を付けたのが徒歩圏内にあるコンビニでした。年齢を考えれば、簡単に採用されるとは思っていなかったそうですが、人手不足の影響もあり、面接は驚くほどあっさり終わったといいます。
最初は品出しや清掃、バックヤードの整理といった裏方の仕事が中心でした。しかし、覚えは早く、やがてレジを任されると、その安定感はすぐに店長やアルバイト仲間の評価を集めました。
「自分でも意外でしたね。現役時代にいろんな人と関わるポジションだったので、接客は得意。記憶力や理解力も意外と衰えていなかった。体力も、同年代と比べればあるほうだと思います。若い頃から続けてきた読書と山登りの習慣が、ここで生きたのかもしれません」
時給1,200円、月収は約10万円。年金月26万円に上乗せされるこの金額は、生活の安心感を大きく高めてくれます。
「このアルバイトしていなければ、孫世代の子と話したり、同世代のお客さんと挨拶したり、そんな機会ないでしょう? 確かに、思っていた老後とは違います。でも、後ろを向いてもしかたがないですからね」
総務省『労働力調査(2024年)』によれば、65歳以上の就業率は過去最高を更新し、男性で35.0%、女性で19.3%。内閣府の『令和7年版 高齢社会白書』によると、現在、収入を伴う仕事をしている高齢者に「仕事をしている主な理由」を尋ねたところ、「収入のため」と回答した人が55.1%と最も多くなっています。
減って初めて実感した、お金のないことの不安。そして、記憶力や体が動くことの価値。佐伯さんは今日も慣れた手つきでレジを打ちながら、人々の日常を静かに支えています。
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