(※写真はイメージです/PIXTA)

どんなに立派な公正証書遺言があったとしても、親が生きている間に認知症で判断能力を失えば、その預金は凍結され、介護費用すら引き出せなくなる。この冷徹な現実を知らないまま、「完璧な準備をしたつもり」でいるご家族があまりに多いのです。本記事では、元エリート銀行員の父を持つ長男・洋介さん(仮名・58歳)が直面した、預金封鎖の悲劇をご紹介します。

手遅れになったあとの「現実的な妥協案」

残念ながら、すでに修造さんには判断能力がありません。今から家族信託の契約を結ぶことは不可能です。そのため、洋介さんに残された道は、銀行員が告げたとおり「法定後見制度」を利用することだけです。

 

しかし、これは「いばらの道」です。家庭裁判所への申立てから後見人が選ばれるまでには数ヵ月かかり、もし専門職(弁護士や司法書士など)が後見人に選ばれれば、月額数万円の報酬を後見人がついている限り払い続けなければなりません。また、自宅の売却などは裁判所の許可が必要となり、柔軟な資産活用はほぼ不可能になってしまいます。

 

成年後見制度は、本人の財産を守るための正当で強力な仕組み(セーフティネット)です。裁判所が監督する「最強の守り」という意味では、これ以上ない安心な制度ですが、その「最強の守り」ゆえに、ご家族が望むような「親のための柔軟な使い勝手」とは相性が合わないこともあるのです。

 

「父のお金を使うのに、赤の他人の許可と報酬が必要になるなんて……」

 

洋介さんは、父の介護と並行して、煩雑な後見申立ての手続きに追われることになります。

親が「遺言書を書く」といったときの注意点

もし、あなたの親御さんが「遺言書を書こうか」と言い出したら、それは素晴らしいことです。しかし、そこで思考停止しないでください。

 

「遺言書は死んだあとのこと。生きているあいだのことはどうする?」

 

この問いかけができるのは、子であるあなただけです。親のプライドを傷つけず、「長生きリスク」に備えるための「家族信託」という選択肢。

 

手遅れになる前に、一度考えてみてください。その一歩が、将来の数百万円、数千万円の自由を守り、家族が安心できる生活を守るための大きな一歩になるはずです。

 

 

市山 智

司法書士/行政書士/AFP(日本FP協会認定)

※本記事は、筆者の経験に基づき、守秘義務の観点から事例を一部修正・変更して作成しています。また、本記事で紹介した対策は一例であり、個別の状況や資産内容等によって最適な判断・選択は異なります。金融機関ごとの具体的な手続き方法については各窓口へ、ご家庭に合った対策の選び方については専門家へ、それぞれご相談されることをおすすめします。

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