(※写真はイメージです/PIXTA)

どんなに立派な公正証書遺言があったとしても、親が生きている間に認知症で判断能力を失えば、その預金は凍結され、介護費用すら引き出せなくなる。この冷徹な現実を知らないまま、「完璧な準備をしたつもり」でいるご家族があまりに多いのです。本記事では、元エリート銀行員の父を持つ長男・洋介さん(仮名・58歳)が直面した、預金封鎖の悲劇をご紹介します。

なぜ「遺言」は無力だったのか

なぜ、このような悲劇が起きたのでしょうか。法的に見れば、銀行の対応は正解です。遺言書はあくまで「死後の財産承継」を決める書類であり、生前の財産管理をする権限を誰かに与えるものではありません。

 

ここに、多くの方が陥る「認知症対策の空白期間」があります。

 

1.元気なうち:本人が自分で管理できる。

 

2.認知症発症〜死亡まで:【ここが空白!】本人は判断できず、遺言も効力がない。

 

3.死亡後:遺言書の効力発生。

 

修造さんは、3の準備は完璧でしたが、2の期間のリスクを考慮できていなかったのです。

 

「運命の分かれ道」はどこだったのか

もし、時計の針を「3年前」に戻せるなら、私は洋介さんにこうアドバイスします。「お父様が遺言書を作ると言い出したそのときが、最大のチャンスです」と。

 

修造さんが「遺言書を作ったから安心だ」といったそのとき、洋介さんが一言、こう切り出していれば、未来は変わっていました。

 

「父さん、これで『万が一のとき』の準備は完璧だね。さすがだよ。でも、父さんには長生きしてほしいから、『生きているあいだのこと』も考えておかない? もし将来、銀行に行くのが億劫になったりしたときのために、『家族信託』も一緒に準備しておくと、もっと安心みたいだよ」

家族信託(民事信託)という解決策

ここで登場するのが、「家族信託」です。これは、元気なうちに資産の管理権限を信頼できる家族(この場合は洋介さん)に移しておく契約です。

 

もし3年前に、遺言とセットで家族信託契約を結んでいれば、以下のような運用が可能でした。

 

財産の名義:形式的に「委託者(修造さん)」から「受託者(洋介さん)」に変更される。

 

管理権限:修造さんが認知症になっても、受託者である洋介さんの判断で、父のために預かったお金を堂々と使用し、施設費用を支払うことができる。

 

承継機能:「父が亡くなったら資産は洋介へ」と定めておけば、遺言と同じ機能も果たせる(遺言代用信託)。

 

「遺言」が点(死亡時)の対策だとすれば、「家族信託」は線(生前から死後まで)の対策です。特に今回のような「預金凍結」を防ぐには、家族信託が最強の処方箋だったのです。

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※本記事は、筆者の経験に基づき、守秘義務の観点から事例を一部修正・変更して作成しています。また、本記事で紹介した対策は一例であり、個別の状況や資産内容等によって最適な判断・選択は異なります。金融機関ごとの具体的な手続き方法については各窓口へ、ご家庭に合った対策の選び方については専門家へ、それぞれご相談されることをおすすめします。

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