相続税評価減を理由に賃貸アパート建築を勧めるが…
前回に引き続き、住宅メーカーの営業マンの巧妙な手口、営業トークについて具体的に見ていきます。
◆要注意トーク2「賃貸アパートを建てると、これだけ相続税評価が減額されます」
賃貸アパート建築を勧める営業トークで主にフォーカスされる内容が、相続税評価減の割合です。
不動産は額面通りの評価となる現金と違い、相続税評価に関しては時価ではなく、毎年7月に発表される「路線価」(公示価格の約80%)をもとに算出され、用途や形状によって評価減できるのが特徴です。賃貸物件を建てる際の評価減のポイントは大きく3つあります。
①賃貸物件を建てると、その敷地は貸家建付地として約20%、評価額を圧縮できる
②土地上に計画した新築建物の評価は、約60%、評価減になる
③借り入れをした際は、その分の債務控除ができるそこで、相続税評価額が大幅減となる
図式(図表1)などを見せつつ、
「3億円を現金で持っていると、3億円の評価のままですよね。しかし、土地の場合、そこに5億円の借り入れをし、賃貸マンションを建てると、土地の評価は貸家建付地として約20%減り、約2億4000万円になります。建物も、固定資産税評価と貸家権控除などにより、約2億1000万円ほどになります。しかもマンション購入の際の借入額を債務控除できますので、評価額はマイナスとなり、相続税0円が実現できるわけです」
といった具合にトークを展開するわけです。
【図表1 一般的な相続税対策の仕組み】
賃貸アパート建築による節税効果は、年々薄れていく
借り入れをし、賃貸アパートを建てるだけで、こんなに相続税評価額が圧縮されるとは――何とも魅力的な話です。
もちろん、この内容自体には、何のウソもありません。しかし、見落としがちな大きな落とし穴があります。それは、相続税の節税効果が年々薄れていくということです。
返済が進んでいくと、借入残高(マイナス資産)は減少しますが、建物評価は借入残高ほど大きく下がりません。一方、収益は蓄積されていきますので、この超低金利下にあっては、概ね15~20年の間に、債務超過は解消されてしまいます。ましてや、収益が蓄積されていくとなれば効果がゼロどころかプラスに転じてしまいます(図表2)。
【図表2 借入が相続対策だと思っていませんか?】
つまり、節税効果だけを見れば、建築した当初が一番効果があるわけです。言い方は悪いですが、アパートが完成した瞬間に亡くなってもらうのがベストという意味で、「早く死んでください」と言っているようなものなのです。
なんと悲しい相続対策でしょうか。私が、この手法を「愛のない相続対策」と呼んでいるのはそれゆえです。
無論、こうした事実もしっかり説明した上で、収益が上がってきた時点で、効率的に収益を分散するまでのアドバイス、サポートを実践しているならば、問題はありません。私の会社では、債務控除の節税効果が薄れてきた物件については、次の新たなる手を必ず提案しています。しかし、住宅メーカーは「建物を建てる」までがビジネスであり、その後の経営や相続対策まではフォローしてくれません。
その意味でも、やはり「愛のない相続対策」と言わざるをえないのです。