「貯蓄から投資へ」ではGAFAは生まれない…日本経済が停滞し続ける本当の理由【元外資系トレーダーが解説】

「貯蓄から投資へ」ではGAFAは生まれない…日本経済が停滞し続ける本当の理由【元外資系トレーダーが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

銀行員から「預金を眠らせておくのはもったいない」と言われても、本当に眠っているのは銀行のほうかもしれません。預金は私たちが銀行に“貸している”お金で、今は融資が伸びず、資金が社会に回らなくなっています。一方で「貯蓄から投資へ」と個人に投資を促しても、企業に届く資金はごくわずか。経済を動かすのは投資商品ではなく、新しいことに挑戦する人たちです。元ゴールドマン・サックスの金融トレーダーである田内学氏による著書『お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点』(朝日新聞出版)より一部を抜粋して紹介します。

「投資される側」になる勇気

ドラえもんのひみつ道具の中には、すでに実用化されたものもある。

 

その一つが「オコノミボックス」だ。

 

テレビやカメラ、音楽プレーヤーなど、さまざまな機能を持った箱型の道具で、声をかけると好きな機能に変身する。

 

学生時代の僕は、こんな道具があればいいなと夢見ていた。1990年代、音楽を聴くのはウォークマン、映画はレンタルビデオ、写真はフィルムで撮影し、情報はテレビか新聞、雑誌で得ていた。どれも日本製品が主役の時代だ。

 

気づけば、「失われた30年」と呼ばれる時代に突入し、日本製品は生活の中心から次々と姿を消した。ウォークマンはSpotifyやApple Musicに、レンタルビデオはYouTubeやNetflixに置き換わった。写真撮影や情報検索も含めて、これらを一台で実現したのが、現代の「オコノミボックス」──iPhoneだ。

 

暮らしは飛躍的に便利になったが、その裏側で日本が得意とした産業は衰退していった。

 

GAFAをはじめとする巨大IT企業がアメリカで生まれたのは、投資が先にあったからではない。まず挑戦する人がいて、そこに後から、投資マネーが自然と集まったからだ。

 

マーク・ザッカーバーグは学生時代にFacebookを立ち上げ、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツも大学を飛び出して挑戦した。アメリカでは挑戦が尊敬され、失敗さえも経験として評価される。

 

今の日本はどうだろうか。

 

金融教育が盛んになっているが、起業や挑戦を後押ししているとは言い難い。

 

「投資とは資産運用をすること」と教えられるばかりで、「お金を融通し挑戦を支える」という金融の本質はほとんど教えてもらえない。そのため、「投資される側になる」という発想が育ちにくい。

 

もしスティーブ・ジョブズが日本式の金融教育を受けていたら──と想像するとゾッとする。「将来のために資産運用を」と考え、大学で起業する勇気を持てなかったかもしれない。iPhoneという「ひみつ道具」が誕生しなかった未来があったかもしれないのだ。

 

挑戦する人を育てず、投資商品の知識ばかり教えているだけで、本当に未来は豊かになるのだろうか。

 

日本には、出る杭(くい)が打たれる空気もある。2022年の開業率(新規に設立された会社の割合)は4%(※4)にも満たないが、1960年代にはほぼ10%を超えていた。(※5)

 

1969年に発表された「ドラえもん」第1話では、のび太の未来の姿をドラえもんが紹介するシーンがある。就職先が見つからなかったのび太は、自分で会社を立ち上げている。起業は、特別な人のものと思われがちだが、やる気さえあればのび太でもできたのだ。

 

誰もが起業する必要はないが、挑戦を温かく応援できる社会であってほしい。

 

出る杭を打つのではなく、出る杭を伸ばす。そんな社会なら、成長を取り戻せるのではないだろうか。

 

誰かの挑戦を、「自分には関係ない」と感じる人もいるかもしれない。しかし、その成功が、まわりまわって私たちの暮らしを変えていく。

 

ひみつ道具のような便利な商品も、商店街の焼きたてのパンの香りも、すべては、誰かの「やってみよう」から始まっている。

 

今日本は、新しいことを始める人にとって恵まれた環境だ。多くの人が「投資したい」と考えているからだ。

 

投資される側になる勇気さえあれば、チャンスはどこにでもある。

 

そして、もう一つ、私たちには「守るものを手放す勇気」も必要だ。

 

※1 本取引所グループ「売買高・売買代金等(株式・債券(2025年5月))」より。2024年のプライム、スタンダード、グロース、TOKYO PRO Marketの合計。
※2 日本取引所グループ「資金調達額(2025年5月)」より。株主割当、公募、第三者割当、新株予約権の権利行使、優先株式等の合計。
※3 アイ・エヌ情報センター「2024年度版 INDB 発行市場レポート(抜粋版)」2025年5月2日
※4 中小企業庁「中小企業白書(2024年版)」2024年
※5 >中小企業庁「中小企業白書(2020年版(HTML版))」(13表 会社の設立登記数及び会社開廃業率の推移)

 

田内 学

社会的金融教育家・作家

 

 

※本連載は、田内学氏による著書『お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点

お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点

田内 学

朝日新聞出版

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