Case3 長期投資なら安心?
「1989年のバブル期最高値から積立投資を始めていても、長期的には儲かっている」
長期投資の勧誘でよく引用される話だ。2024年時点では、たしかにバブル期から投資を続けていれば、資産は約3.1倍の資産にまで増えている。
こんな話を聞くと、将来有望な次の埋蔵金銘柄を探したくなる。
落とし穴
これは35年以上経った今だから言えるセリフだろう。実際には2013年頃まで長らくマイナスの期間が続いていた。それまでに定年を迎え、現金化が必要だった人にとっては致命的だった。
ここでも「企業の財布」と「他の投資家の財布」を意識して考えてみようと思う。
まず「企業の財布」については、今後、日本の人口が急速に減少することを考えると、企業が国内だけで収益を伸ばし続けるのは難しい。海外事業をうまく拡大できなければ、収益の成長はこれまでのようには期待できないだろう。
また、「他の投資家の財布」についても注意が必要だ。株を売却するときに、他の投資家が買ってくれなければ、思ったような価格で現金化できず、マイナスになる可能性が十分にある。人口減少はここにも影響を及ぼす。今は新NISAなどで積立投資を始める人が増えており、株価は上がりやすい。しかし数十年後はどうだろうか。
積み立てしていた株をいざ売ろうとするとき、新たに投資を始める若者の数は、老後を迎えた高齢者よりもずっと少なくなっている。買い手が少なければ株価は当然下落しやすくなる。
人口減少というこれまで経験したことのない時代に突入する日本において、過去のデータを持ち出して、「長期的な投資なら安心」と安易には言い切れない。
繰り返しになるが、投資そのものを否定したいわけではない。そもそも投資の世界にいた僕に否定する資格などない。ただ、その正体を知ることで、焦りや不安が少しでも和らぐことを願っている。
※1:1999年に株式を上場したエヌビディアは2024年に時価総額が世界1位となり、その間に株価は5000倍にも高騰した。
田内 学
元ゴールドマン・サックス証券トレーダー
