トランプ氏が30年前に大金をかけて仕掛けた日本バッシング

今回は、トランプ氏が30年前に大金をかけて仕掛けた「日本バッシング」について見ていきましょう。※本連載は、日本人として最初にドナルド・トランプ氏にロングインタビューを行った経験を持つ、植山周一郎氏(株式会社植山事務所・代表取締役社長/経営コンサルタント)の著書、『予言 ドナルド・トランプ大統領で日米関係はこうなる』(SDP)の中から一部を抜粋し、トランプ氏が大統領に選ばれた理由を検証します。

対日政策を批判する「意見広告」を主要各紙に掲載

次に彼の政治哲学を聴いてみた。

 

「あなたはアメリカの海外防衛政策に関して、非常に興味をお持ちだ。昨年(1987年)9月2日にニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ボストングローブなどの新聞に10万ドル(当時のレートで約2000万円)もかけて、意見広告を出しましたね。特に日本を名指しで批判している。真意をお聞かせください」

 

彼はしばらく考えた後、慎重に言葉を選んで私に話してくれた。

 

「アメリカは多くの兵士を日本に派遣して、何億ドルもの費用をかけて日本の安全を守っている。それに対して、日本は経済的にアメリカに十分な貢献をしていない。ペルシャ湾もアメリカの艦隊が守っているおかげで、日本のタンカーが涼しい顔をして日本に原油を運べる。その石油を利用して、日本は自動車、家電など多くの製品を製造し、それをアメリカに輸出して巨額の利益を収めている。日本は十分に豊かになったのだから、もっと多くの費用負担をすべきだ。心底そう思っている」

 

彼の意見広告に書いてあった通りの話だった。しかし、彼の広告の内容はアメリカ国民に向けての彼の意見であり、当時のアメリカの対日政策を痛烈に批判するものだった。

 

これがその意見広告だ。要点を翻訳してみよう。

 

“For decades, Japan and other nations have been taking advantage of theUnited States,” .“ The saga continues unabated as we defend the Persian Gulf,an area of only marginal significance to the United States for its oil supplies,but one upon which Japan and others are almost totally dependent.”

(日本や他の国は何十年間、アメリカを利用してきた。アメリカへの原油供給という意味では重要性が少ないペルシャ湾を警備してきた。日本などはそこに全面的に依存しているのだ)

 

“Why are these nations not paying the United States for the human lives andbillions of dollars we are losing to protect their interests?”

(これらの国の利益を守るために我々が失っている人命と何億ドルもの費用を、なぜこれらの国は払っていないのか?)

 

“The world is laughing at America's politicians as we protect ships we don'town, carrying oil we don't need, destined for allies who won't help.”

(原油を積んだ同盟国向けの船を我々が守っているのに、彼らは協力しようとしていない。アメリカは世界中の笑い物になっている)

 

Americans could “help our farmers, our sick, our homeless by taking fromsome of the greatest profit machines ever created —machines created andnurtured by us.”

(アメリカが援助してきたこれらの巨大利益マシーンからいくらかの利益を取り戻して、アメリカの農民や病人やホームレスを助けよう)

 

“‘Tax’ these wealthy nations, not America,”“. End our huge deficits, reduceour taxes, and let America's economy grow unencumbered by the cost ofdefending those who can easily afford to pay us for the defense of theirfreedom.”

(アメリカではなく、これらの富裕な国々に課税しよう。自国の安全保障の費用を楽々と払える国々への費用負担をなくせば、アメリカは巨額の財政赤字を終わらせ、減税し、経済を成長させることができるのだ)

 

“Let's not let our great country be laughed at any more,”

(我々の偉大な国を、もう笑い物にはさせてはならない)

 

この広告が出た後、彼は1988年の大統領選挙への出馬が噂されたが、それは実現しなかった。しかし、この意見広告は、この頃からトランプ氏が政治に並々ならぬ興味を持っていたことの動かぬ証拠である。

厳しい意見を言いつつも、細やかな気配りを見せる

ところが、私とのインタビューでも痛烈に対日の厳しい意見を述べたあと、彼は私にちょっと笑みを見せながら、こう言ったのだ。

 

「でも、そういった日本に有利な条件を、無能なアメリカの政治家相手に巧みに交渉した日本の政治家は頭がいい。私は日本人をrespect(尊敬)している」

 

彼は目の前にいた私と、この番組を見るであろう日本人視聴者の気持ちを和らげ、自尊心をくすぐるようなことを最後に付け加えたのだった。こういう気配りができるところが、彼を「交渉の達人」にしているのだろうと、私は思った。

 

私は苦笑しながらこう聞いた。

 

「Being sarcastic?」

(皮肉を言っているんでしょ?)

 

「No, I am serious.」

(いいえ、私は真剣にそう思っています)

 

これが彼のパーソナル・ブランディングの神髄だ。

 

パーソナル・ブランディング=つまり、個人イメージ戦略。彼は自分が話している相手によって、自分が投影したいイメージを構築して、それを最も効果的に伝えるべき話し方、表情、言葉を自由自在にマッチさせる才能を持っていることに気が付いた。

 

この才能は、今回の大統領選挙キャンペーン中の〝吠える暴言王〟のイメージから、勝利宣言以後の穏やかで、大統領らしい言動と態度に豹変したときに見事に発揮された。

 

ここで我々のインタビューは終了した。トランプ氏は非常にご機嫌だった。それと(ここでシューにナイスにしておけば、いい報道をしてくれるに違いない)という、彼一流のビジネス的計算もあったのだろう。

 

「シュー、今日のインタビューは楽しかったよ。実は明日が僕の42歳の誕生日で、バースデーパーティーをアトランティックシティーのトランプ・プラザでやることになっている。もしも都合が良ければ、君も招待したい」

 

「ドナルド、それは素晴らしい。ぜひ、伺わせてもらいます。カメラクルーも連れていって構いませんか?」

 

「もちろんだとも。僕の友達やたくさんのセレブたちが1000人ほど来るから、楽しい映像が撮れるよ。明日の夕方7時頃に会おう!」

 

彼は非常にフレンドリーな笑顔で僕と握手をし、そして社長室の出口まで見送ってくれた。

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株式会社植山事務所 代表取締役社長
経営コンサルタント 

静岡県生まれ。一橋大学商学部卒業、スタンフォード大学院S.E.P.修了。
英国ソニー販売部長、ソニー本社宣伝部次長等を歴任しウォークマンの世界的ブランディングに貢献。
1981年、株式会社植山事務所を設立。国際経営コンサルティング、翻訳、講演、テレビ番組の企画・司会などを行う。
ヴァージン・グループ顧問、サッチャー元英国首相の元日本代理人。2013年から一橋大学非常勤講師としてグローバルビジネス論の講義を英語で行っている。
日本人として最初にテレビ番組の企画でドナルド・トランプ氏のロングインタビューを敢行。
『D.トランプ 破廉恥な履歴書』(飛鳥新社)、『経営者失格─トランプ帝国はなぜ崩壊したのか』(飛鳥新社)、『交渉の達人 トランプ─若きアメリカ不動産王の構想と決断』(ダイヤモンド社)の翻訳も手掛けている。
これまで46冊の著訳書がある。

著者紹介

連載ロングインタビューから探る「トランプ大統領」の正体

予言 ドナルド・トランプ大統領で 日米関係はこうなる

予言 ドナルド・トランプ大統領で 日米関係はこうなる

植山 周一郎

SDP

不動産王の最大の弱点は不動産!? 世界、そして日本に訪れる未来は── ドナルド・トランプに実際に会ってロングインタビューを行った植山周一郎が語る、第45代アメリカ大統領トランプの正体。 会ったときに感じた印象や当時…

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