「こんな男はめったにいない」
ドナルド・トランプ氏に私が会ったのは、1988年6月13日だった。
その当時から私は国際経営コンサルタントをしており、世界最大の広告代理店でニューヨークに本社を置くBBDO社の特別顧問をしていた。その傍ら、テレビ東京でレギュラー番組の企画と司会も担当していた。
『ハローVIP!』という題名の番組で、世界のVIPを私が英語やフランス語で直撃インタビューして、彼らにビジネスやプライベート生活を語ってもらおうという趣旨。毎週土曜日の夜10時30分からの30分番組だったので、取材が大変だった。
どのVIPにゲストとして登場してもらうかの選択から、出演交渉、質問項目の作成、実際のインタビュー、日本語字幕の作成まで、ほとんどの仕事を私ひとりでこなしていた。
当時、ニューヨークでの私の定宿はプラザホテルだった。五番街を挟んで反対側、ティファニーのお店の隣にいつもトランプタワーが見えた。5階から10階の外壁は段々畑のようになっており、そこに多くの樹木が植えてある。そのユニークな景観とエコの雰囲気が、私は気に入っていた。
ある日、金ぴかで成金趣味のエントランスからトランプタワーの中に入ってみた。非常に高い吹き抜けが気持ちがいい。何台ものエスカレーターが3階まで動いていて、その横には滝があって、やかましいほどの勢いで水が落ちている。訪問者を爽快で、豪華な気持ちにさせてくれる。
この素晴らしいビルを作ったのが、ドナルド・トランプという人だということは聞いていたが、もっと知りたくなって、本屋に行った。すると、彼が書いた自叙伝『The Art of The Deal』(邦訳本『トランプ自伝』)という本がベストセラーになっており、平積みになっていた。さっそく一冊を買い求め、ホテルに戻って読んだ。
「こんな男はめったにいない。ぜひ自分の番組のゲストに迎えて、直撃インタビューをしたい!」という気持ちになった。
親友経由でインタビュー依頼。即快諾したトランプ氏
さて、彼とのコンタクトをどう取ったらいいか、いろいろと調べてみた。その結果、私が特別顧問をしていたBBDO社の副社長トム・クラークが彼と親友であることをつきとめた。私はさっそくトムに会いにBBDO本社に行った。
「Hello Tom! 今日はお願いがあって来たんだ」
「What can I do for you?」
(なにか私にできることがあるかい?)
「君がドナルド・トランプと親友だと聞いたけれど、僕が司会をやっている日本のテレビ番組のゲストとしてトランプにインタビューしたいと思う。アポを取ってくれないか? 彼にとっても悪い話じゃないと思うよ。日本でトランプの名声が広まれば、彼のビジネスにもプラスになるだろうから」
するとトムは目の前ですぐにトランプ氏に電話をかけてくれた。
「Hello, Donald, this is Tom Clark. How are you?」
(こんにちはドナルド、こちらはトム・クラークだ。元気かい?)
「My Japanese friend, Shu, wants to interview you for his TV program.」
(私の日本人の友人のシューが、彼のテレビ番組で君をインタビューしたいと言っている)
「君にとってもいいPRになると思うよ」
すると、電話の向こうのドナルドはしばらく考えてから、こう返事をくれたのだった。
「No problem! How about tomorrow?」
(問題ないよ。明日はどうかな?)
彼は快諾してくれた。友人からの依頼だし、日本で Trump の名前を広めることは、彼のビジネスにとって有益だと判断したに違いない。その頃から、彼は即断即決の男だった。