事故物件の定義とは
「最近、事故物件に自ら進んで入居を希望される方が増えている」という話を耳にしました。
その理由としては「家賃が安い」「設備が新しい」「自身が望む条件を呑んでくれた」など、事故物件となった部屋の入居を検討している希望者に対して有利な付加価値が付いているケースが多いからなのだそうです。しかし実際には「人の亡くなった部屋に住むのは気持ちが悪い」と思われている方も多くいらっしゃるのではないかと思います。
このような気持ちや嫌悪感を、不動産業界の用語では「心理的瑕疵」といいます。心理的瑕疵が発生する部屋に関しては、例えば賃貸物件の場合、オーナー(貸主)から入居者(借主)へその内容を一定期間、告知をする義務も課されます。では、事故物件の大きな要因となる心理的瑕疵とは、どのようなときに発生するのでしょうか?
心理的瑕疵のあいまいさ
賃貸不動産の管理会社に勤務していた時の話です。
ある戸建てに住む老人がいらっしゃいました。随分と歳を重ねられた老人は、身体が弱り、病院の一室で自身の死期を悟ります。そして老人は家族に願ったのです。「最期は自宅で迎えさせて欲しい」と。老人が自宅に移動し、程なくしてその時は訪れました。老人の容態について連絡を受けたご家族は早急に自宅へと集まり、そして医者と共に、眠るように穏やかに息を引きとられるその姿を見守ったのです。
私が管理担当をすることになった戸建て住宅は、元々はオーナーのお父様(亡くなられた老人)が所有されていた家でした。しかしこの度、お父様がご逝去され、お母様もすでに他界されていらっしゃることから、息子であるオーナーが戸建てを相続することとなりました。しかしその戸建てについては現状、使い道がないため、どうにかできないものかと相談を頂戴したのです。
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「空き家のままにしておくのはもったいないし、誰も使っていないと家が傷むから」
そのように考えをまとめられたオーナーは早速、その戸建てを賃貸運用することに決めました。室内リフォーム後、タイミングよく入居者も決定しました。順調な滑り出しです。しかしそれから数か月後、入居者家族のご主人ら1本の電話連絡を受けることになります。
v「今借りているこの戸建てで人が亡くなっていると近所の人から聞きました。この家は事故物件なんですか? それならなんで、そんな重要なことを契約前に教えてくれなかったんですか。最初に聞いていればこの家に住むこともなかったのに!」
「家で人が亡くなられたと言われたのですか?」
「そう聞きました。もうここには住んでいられない。どうしてくれるんですか!」
「すみません。そのことについては私も初耳です。所有者に確認をしますので少々お待ちください」
私はすぐにオーナーに確認しました。
「実は入居者さんから連絡がありまして。それがあまりよい内容ではないのですが…」
「何かあったんですか?」
「入居者さんが近所の方から聞いたそうです。オーナーの物件で人が亡くなっていると。事故物件なんじゃないかとお怒りになっています。戸建ての中でどなたかが亡くなった。そのような事実はあるのでしょうか?」
数秒、沈黙の時間が流れます……。
「児玉さん。人が亡くなっているのは事実です」
「ッ!」
「でも児玉さん。老衰で亡くなった父を、皆で看取っただけなのです。それでも私の家は事故物件となってしまうのですか?」
(そうか…。そういう事だったのか)「いいえ、オーナー。その場合には事故物件とはなりません。それは通常に起こり得ることです」
「よかった。それではそのように入居者さんにお伝えください」
そして私は入居者さんに連絡し、事の経緯を説明しました。
「オーナーのお父様が老衰で…。自宅で看取られた…?」
「はい。そうです。その理由を加味し、改めて当社内にて検討したところ、住まわれている戸建ては事故物件ではないと判断しました」
「そうですか…」
「はい。それで…、今後のことについてはいかがいたしますか?」
「……その理由であれば何も問題ありません。住み続けさせてもらいます」
「承知いたしました。どうもありがとうございます」
近所の人が何と言ったのかはわかりません。しかし、その言葉が原因となり、その言葉を耳にした入居者に心理的瑕疵が発生しかけたのです。
