事故物件の一般的なイメージ
「事故物件にどのようなイメージがありますか?」このように皆様に質問をすると「怖い」「不気味」「気持ちが悪い」「何かが起きそう」「縁起が悪い」「絶対に住めない」「関わりたくない」など、ポジティブよりもネガティブな回答の方が多く並びます。
>恐らくそれは最も避けなければならない「死」がその部屋の近くに存在していると感じるためなのかもしれません。よく「児玉さんは事故物件に泊まり込んで怖くないのですか?」と質問をされることがあります。その際私は「突発的なことが発生した場合には怖い時もあるけれども、基本的には怖くないです」と回答します。
オバケ調査に入る前には、オーナーや管理会社、必要に応じてご遺族にも連絡を取らせていただき、その部屋で発生した詳細な内容を確認をします。
>その過程で亡くなられた方がどういう人物だったのかを私は知ることができるのです。私と故人との間柄がすでに《赤の他人》ではなくなっている。これがもしかすると、私が基本的に怖さを感じないという一番の理由なのかもしれません。
これは余談ではありますが、誰がいるともしれない心霊スポットや廃墟については、私は怖くて怖くて足を踏み入れることが一切できません。
“心の距離”が縮まれば心理的瑕疵が変化する
事故物件に付加価値と希少性を見出すことで心理的瑕疵を軽減・解消することを目的とするオバケ調査ですが、起業した当初と現在で大きく変わったことがあります。それは事故物件に対するアプローチです。
起業当初、オバケ調査とはただ単に機材を使った室内調査でしかありませんでした。しかしオバケ調査の件数を重ねるに従ってオーナーはもちろんですが、ご遺族の方とも深く関わらせていただくようになりました。
その際に気付いたのです。私が関わらせていただいたご遺族の皆様の多くは、その部屋で亡くなられた方に対し嫌悪感を持たれてはいなかったということを。むしろ、なぜこのようなことになってしまったのか。なぜ自死を決意してしまう前に一言相談をしてくれなかったのか。生前はこのような人物だった。笑顔が可愛かった。いい奴だった。会えるのであれば会いたい。もう一度話をしたい。と、故人に対して優しい想いを聞かせてくださいました。
その中でも、あるお父様の言葉がとても印象に残っています。
「オバケ調査で室内に異常があるのならば、それはきっと亡くなった私の子どもが原因だと思う。ならば父親である自分が一生その部屋を借り続けるべきだ。自分の子どもだし何も怖くない。姿を見せることができるならば出てきて欲しい。亡くなったあの子とゆっくりと話すことができるのならば、これほど嬉しいことはない……」
事故物件で亡くなられた方は、誰かの大切な人だったのです。事故物件に関して嫌悪感を持たれる方がいる一方で、先ほどのお父様のようにそう思わない方もいらっしゃる。この違いは何か。私はそれを“心の距離”と名付けました。何も知らない赤の他人が亡くなった部屋は確かに気持ちが悪いです。しかしその距離が少し縮まっただけで嫌悪感は小さくなるのではないかという仮説です。
例えば室内で亡くなった方が歴史的な有名人だったらどうでしょう。どんな部屋に住んでいたのだろう、もし万が一その人が出てきたとしたら……。と、嫌悪感よりも興味を惹かれるのではないでしょうか。また亡くなられた方が自分に近しい人であれば、会いたい気持ちや話したい気持ちを持つというのは前述の通りです。そしてそれが赤の他人という立場だったとしても、そこにいた方の生前の人柄や大切に想われていた様子を知ることができたとするならば、もしかしたら状況は変わってくるのかもしれません。
オバケ調査とは、機材を使った客観的な観測を事故物件でおこなう調査ですが、現在はそれだけではありません。そこで亡くなられた方とこれからその物件に関わって生活していく方々との心の距離を調整することもその役目だと思っています。そしてそれが付加価値となり、場合によっては希少性につながる。ひいては心の距離を調整することこそが、事故物件が抱えている心理的瑕疵や嫌悪感を軽減・解消する大きなきっかけになるかもしれないとも考えています。
児玉和俊
宅地建物取引士
賃貸不動産経営管理士
相続支援コンサルタント
