相続税・贈与税の納税義務者の見直しを明示
平成29年度税制改正大綱(平成28年12月8日発表)において、相続税・贈与税の納税義務者の見直しが明記されました。今回は、最も重要な改正部分について解説します。
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(平成29年度税制改正大綱26ページ・2 相続税又は贈与税の納税義務の見直し)
「(1)国内に住所を有しない者であって日本国籍を有する相続人等に係る相続税納税義務について、国外財産が相続税課税対象外とされる要件を、被相続人等及び相続人等が相続開始前10年(現行:5年)以内いずれ時においても国内に住所を有したことがないこととする。」
この改正は、「制限納税義務者」という、国外財産の相続・贈与について日本の相続税・贈与税を課税されない「納税義務者」の範囲を狭め、相続税・贈与税の不当な課税逃れに歯止めをかけることを目的としています。
現行法では、資産家の親とその子が、双方とも、日本国内に住所を有しない状態を5年超続ければ、子は「制限納税義務者」となり、その結果、日本国籍を有したまま、日本の相続税・贈与税を課されずに、国外財産を相続・贈与することができます。
今回の改正は、この5年という期間を10年に伸ばすことで、容易には課税逃れをできないようにしているのです。
改正を重ねてきた納税義務者の範囲
「制限納税義務者」に対して、「無制限納税義務者」は、国内財産・国外財産いずれの相続・贈与の場合においても、相続税・贈与税を納税する義務を負います。
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平成12年度税制改正以前は、相続・贈与により財産を取得した時点で、国内に住所を有していないもの(「非居住者」)は、「制限納税義務者」でした。
その結果、資産家の親が、子供を国外に移住させて「制限納税義務者」にしたうえで、財産を国外に移転させて、その国外財産を子供に贈与することで、日本の贈与税を免れるということが行われました。
このような、国外財産の贈与に歯止めをかけるため、平成12年度税制改正により、親と子のいずれかが過去5年以内に日本国内に住所を有していた場合は、子が非居住者となっても相続税・贈与税を課されることになりました。
これが「非居住無制限納税義務者」の導入です。この「非居住無制限納税義務者」と通常の「居住無制限納税義務者」を合わせて、「無制限納税義務者」と総称します。
しかし、平成12年度税制改正後も、外国籍を有する非居住者は「制限納税義務者」であったため、資産家の親が、子や孫に外国籍を取得させ、その子や孫に国外財産を贈与することで、日本の贈与税を免れるということが行われました。
このような贈与に歯止めをかけるため、平成25年度税制改正では、外国籍を有する非居住者であっても、その財産を取得した時に、被相続人(贈与者)が日本国内に住所を有する場合は「非居住無制限納税義務者」に該当することとなりました。
平成29年4月1日以降の相続・贈与から適用へ
以上の改正の結果、現行税制では、
①親が非居住者で、外国籍の子・孫に相続・贈与をする場合
②親と子や孫の双方が、日本に住所を有しなくなってから5年超を経過してから相続・贈与する場合
だけが、日本の相続税・贈与税を免れる「制限納税義務者」でした。
平成29年度改正は、②について、平成12年度税制改正から維持されてきた5年という期間を10年に変更して、「制限納税義務者」の範囲をさらに狭めるものです。この改正は、平成29年4月1日以降の相続・贈与に適用されるため、実務的にも重要な改正です。
[図表]平成29年度税制改正による国内外財産に課税される相続税・贈与税のイメージ
次回は、相続税・贈与税の「納税義務」に関するその他の改正について解説します。
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