年々、厳しさを増している国外財産に対する課税。特に相続時において国外財産は、法律・税金の面でトラブルを招いてしまうことが少なくありません。本連載では国際税務が専門という異色弁護士が国際相続&税務の最新事情について解説をしていきます。第1回の今回は、中古の海外不動産での減価償却費を活用した節税スキームに関し、会計検査院が疑問を呈した件をお伝えします。

平成30年度以降に制度改正が行われる可能性も

会計検査院の平成27年度決算検査報告(平成28年11月7日内閣へ送付)には、「国外に所在する中古の建物に係る所得税法上の減価償却費について」という報告が存在します。

 

 

この報告は、財務本省・国税庁・10税務署(麹町、京橋、芝、麻布、四谷、目黒、雪谷、玉川、渋谷、芦屋各税務署)を検査対象としています。納税者のうち、国外の建物を取得して不動産事業を行い、多額の減価償却費を計上して、不動産所得に損失が生じている者について報告し、財務省に対して、海外中古建物の減価償却について有効性及び公平性を高める対策を検討するよう求めています。


平成28年12月8日に発表された「平成29年度税制改正大綱」には、海外中古建物の減価償却について直接的な言及はありませんでした。しかし、次年度以降に何らかの税制改正が行われる可能性が十分あるため、改正の動向に注意が必要です。

中古不動産の減価償却費を活用した節税スキームとは

中古建物に投資して多額の減価償却費を計上し、不動産所得について損失を発生させ、他の給与所得・事業所得等と損益通算して所得全体を圧縮するという節税スキームが存在します。この節税スキームは、海外中古建物を投資対象とすることも可能です。日本の居住者は、国外で保有する不動産の不動産所得についても、所得税を課税されますが(「全世界所得課税」)、その逆に、国外で不動産所得について損失が発生した場合には、国内の他の所得と損益通算をして、所得全体を圧縮することが可能だからです。

 

建物の法定耐用年数は耐用年数省令により定められていますが、中古建物については、法定耐用年数に代えて使用可能期間の年数を見積もる方法も選択できます。そのうえで、使用可能期間年数を見積もることが困難な場合は、「簡便法」という計算方法を用いることができます。「簡便法」によれば、法定耐用年数を全て経過した中古建物の場合、「木造又は合成樹脂造」が4年、「レンガ造、石造又はブロック造」が7年、「鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造」 が9年の耐用年数となり、この計算方法が、海外中古建物にも同様に適用されます。

中古市場が発展した海外不動産での「簡便法」適用に疑問

会計検査院は、海外中古建物に「簡便法」をそのまま適用することに疑問を呈しています。①日本では、住宅流通戸数のうち中古住宅の流通が14.7%に過ぎないのに対し、アメリカ合衆国では83.1%に上り、②日本の住宅が平均約32年で滅失するのに対し、アメリカ合衆国の住宅は約66年、英国は約80年となっていて、中古住宅と新築住宅の価格差が小さい状況であること等を挙げ、「国外に所在する中古等建物については、簡便法により算定された耐用年数が建物の実際の使用期間に適合していない恐れがあると認められる。」と述べています。


具体例で言うと、アメリカにある築35年の木造戸建を購入した場合、「簡便法」によって取得費用を4年間で多額の減価償却費として計上し、減価償却終了後すぐに新築住宅に近い価格で売却して、資産を減らさず税メリットだけを享受できてしまうことを問題視しているのです。


以上のとおり、会計検査院は「簡便法」による海外中古建物の減価償却を問題視しており、財務省に何らかの対策を検討するよう求めています。そのため、平成30年度以降、何らかの税制改正がなされる可能性が十分に考えられますので、海外中古建物へ投資する場合は、この点についても十分に考慮する必要があります。

 

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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