●FRBのイエレン前議長とバーナンキ元議長はFRBの独立性が損なわれることの危険性を指摘した。
●FRBと財務省は1951年に政府債務管理と金融政策の分離で合意、ただFRBへの圧力は継続。
●トランプ氏はFRB理事を政権寄りの人物で固める意向、理事承認時の共和党上院議員に注目。
FRBのイエレン前議長とバーナンキ元議長はFRBの独立性が損なわれることの危険性を指摘した
米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン前議長とバーナンキ元議長は7月21日、「The Fed Must Be Independent(FRBは独立していなければならない)」とのタイトルで、米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿しました。両氏は、トランプ米大統領のFRBに対する大幅な利下げ要求や、パウエル議長への圧力などは、米国経済に永続的で深刻な損害をもたらす危険性があると指摘しました。
両氏はまた、世界中の投資家が長年、たとえ政治的に不人気な決定でも、FRBがインフレ抑制のために厳しい判断を下すと信頼してきたことを挙げ、FRBの独立性が損なわれた場合、米国経済最大の強みの1つである海外資本の誘致能力を低下させる恐れがあると警告しました。そして、トランプ氏に対し、次期議長には政治と適切な距離を保ち、FRBの独立性維持に努める人物を選任するよう強く求めました。
FRBと財務省は1951年に政府債務管理と金融政策の分離で合意、ただFRBへの圧力は継続
寄稿でも触れられていましたが、FRBは第2次世界大戦中および戦後数年間、米財務省に迫られ、長短金利に上限を設定する枠組みを設け、戦時債務の資金調達を支援した経緯があります。しかしながら、この政策は1940年代後半までに、2ケタのインフレ率上昇を招く結果となりました。FRBと財務省は協議を重ね、1951年3月に政府債務管理と金融政策を分離する合意に達し(図表1)、FRBは金融政策の独立性を確保できるようになりました。
ただ、その後もFRBに対する政治的圧力は続きました。ニクソン元大統領は1972年の選挙を前に、短期的な景気刺激を図るため、FRBのバーンズ元議長に低金利の維持を迫りました。しかし、その後、米国経済はスタグフレーションに陥りました。スタグフレーションは1980年代初頭、ボルカー元議長がインフレ抑制に政策の焦点を戻すまで米国経済を苦しめましたが、そのボルカー氏も当時のレーガン政権から圧力を受けました。
トランプ氏はFRB理事を政権寄りの人物で固める意向、理事承認時の共和党上院議員に注目
ボルカー氏の金融引き締めは、米国に景気後退をもたらしましたが、次第にインフレは落ち着き、安定した経済局面を迎えたことから、FRBのインフレ抑制に対する信頼性は回復していきました。イエレン氏とパウエル氏は、FRBへの政治的圧力について、FRBのインフレ抑制への決意を疑わせる結果になりかねず、いったんその信頼性が失われると、回復には多大な代償が伴うと述べています。
8月29日付レポートでも解説した通り、トランプ氏にはFRB理事を政権寄りの人物で固める狙いがあるように思われ、仮にそれが実現した場合、地区連銀の総裁人事にも影響が及ぶことが想定されます。ただ、FRB理事の就任には上院の承認(過半数の賛成)が必要であり、上院100議席のうち共和党が53議席を占める現状(図表2)、共和党上院議員がFRBの独立性をどう考え、行動するかも注目されます。
※当レポートの閲覧にあたっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『FRBの独立性について考える【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト
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