(※写真はイメージです/PIXTA)

超少子高齢社会となって久しい日本で、深刻化する「親の介護」問題。厚生労働省『特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)』や事例とともに解説していきます。

特養に入居し一安心…と思いきや

田中芳子さん(仮名・78歳)は、長年住み慣れた自宅で一人暮らしを続けていました。しかし、ある日自宅で転倒してしまったことをきっかけに、認知症の症状が徐々に進行。要介護3の認定を受け、自宅での生活が次第に難しくなっていきました。

 

芳子さんの年金収入は月14万円。経済的な事情もあり、比較的安価で入居できる特別養護老人ホーム(特養)への入所を決意しました。特養は要介護3以上の高齢者や認知症の方が主に入居する施設で、所得に応じた利用料の軽減措置もあることから、多くの家族が選ぶ施設です。

 

厚生労働省『特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)』によると、特養の入所申込者は全国で29.2万人、そのうち自宅で待機している方は11.6万人とされており、依然として高いニーズがあることがうかがえます。

 

芳子さんは幸運にも空きのあった特養に入居でき、家族もほっと胸をなでおろしました。芳子さん自身も、新しい環境に不安を感じつつも「迷惑をかけずに済む」と少しホッとした様子だったといいます。

 

ところが入居から半年ほど経ったある日、息子さんのもとに芳子さんから「助けて」と涙声の電話がかかってきました。

 

慌てて駆けつけると、部屋の様子は言葉を失うほどでした。床には食べ残しや紙くずが散乱し、ゴミ箱もあふれていました。芳子さんの髪は乱れ、服はしわくちゃで、明らかに清拭も着替えもされていない様子。何より、頬はこけ、体は目に見えて痩せていたのです。

 

息子さんはショックを受け、すぐに施設の職員に事情を尋ねました。

 

施設側の説明によると、職員数が足りておらず、清掃や見守りなどの基本的なケアに手が回らない状態だったとのこと。特養は要介護度の高い入所者が多く、介護スタッフの負担が非常に大きいため、このような事態が生じてしまったというのです。

 

実際に、こうした場面は決して極端な例ではありません。公益財団法人 介護労働安定センター『令和4年度 介護労働実態調査』によれば、介護職員の66.1%が「人手が足りない」と回答し、さらに「業務が多すぎる」「身体的負担が大きい」も上位に挙げられています。また、内閣府『令和6年版 高齢社会白書』では、2023年時点で介護職の有効求人倍率は4.02倍とされており、深刻な人手不足が続いています。

 

実際に、「介護施設に預けた=安心」とは限らない現実を指摘する専門家の声も多くあります。厚生労働省が実施する監査や実態調査においても、施設によってケアの質にばらつきがあることが報告されており、常に目を配ることの重要性が強調されています。

 

芳子さんの息子さんはすぐに母を施設から連れ出し、新たな施設を探すことにしました。しかし、人気施設はどこも満床で空きがなく、入所までに時間を要する状態でした。

 

その間はやむなく在宅介護をすることに。息子さん自身も仕事を抱えており、介護と両立する生活は心身ともに大きな負担となりました。芳子さんの体調も不安定で、通院の付き添いにも追われる日々が続きました。

 

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