契約において「当事者が誰か」は非常に重要だが…
なおここで少し話がそれますが、自社が初めて取引をする海外の取引先に対してはどの程度の信用を置いてよいか、慎重に判断すべきだと覚えておいてください。相手が大企業・有名企業であるからという理由だけで、必ずしも信用できるわけではありません。
連載第1回で紹介したT社のように著名企業の場合、海外との交渉に慣れているのでかえって契約書を盾にとって強気に出てくることも多々あります。零細企業のほうがこちらの要求に柔軟に対応してくれることもあります。
また、契約を作るとき、契約書に記載する相手方当事者が誰になるか、というのはとても重要です。
世界中どこでも、通常、会社というのは「有限責任」です。取引相手が会社である場合、たとえ実際に違反したり約束を破ったりするのがその会社の経営者であっても、経営者個人に対して直接賠償請求していくことはできません。
また、いくら実際に事業を行っている会社と同じグループに属する会社であったとしても、契約書に署名したのが実態を有しないペーパーカンパニーであった場合、基本的にはそのペーパーカンパニー以外を訴訟の相手方(被告)として訴えていくことは非常に困難です。
「実体がない会社」の責任追及は非常に困難
筆者が経験した事例では、次のようなものもありました。日本のTH社は、ある外国の貿易会社X社の社長のKさんに熱心に懇願されて販売店契約を結びました。
しかしTH社は、相手の外国会社が契約書で使用した会社の名前をしっかり調べずに契約にサインしてしまいました。TH社は販売店契約に従って、X社に対して販売店となるための宣伝活動や営業活動の準備や指導を丹念に行ってきました。
しかしながら、3か月ほどたった後で、そのX社が契約内容に反して、契約期間の途中で一方的に販売店契約を破棄してきました。
このときにTH社が責任を追及しようと思って調べたところ、契約当事者のX社は、実際に貿易事業を行っている会社と違う、社長K氏が個人で利用している実体がない会社(いわゆるペーパーカンパニー)であることが判明しました。
K社長個人を訴えようと思っても、契約当事者ではないため、原則として販売店契約違反の責任追及をすることはできません。また、それでは、とK氏が運営する実態のある貿易会社本体を訴えようにも、契約書からはその貿易会社とペーパーカンパニーX社の関係が明らかになりません。
したがって、X社しか訴えを起こすことができませんが、財産がなければ裁判をしてもお金を回収しようもないことになります。見るべき財産がないX社を訴えてもまともに対応してこないこと明らかです。
この話は次回に続きます。