「米国国籍=米国市民」ではない?知らないと損する“二つの身分”の違いとは【国際税務のプロが解説】

「米国国籍=米国市民」ではない?知らないと損する“二つの身分”の違いとは【国際税務のプロが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

米国における「国籍(nationality)」と「市民権(citizenship)」は、しばしば同義に扱われますが、法的には明確な違いがあります。本稿では、国籍と市民権の概念の違いや、米領各地の住民に対する適用の相違、さらに米国の永住権(グリーンカード)や税法上の居住者の判定基準について解説します。また、日米租税条約における「居住者」概念との関連も取り上げ、二国間での税務上の扱いの違いについても整理します。

米国国籍と市民権の相違

米国では、「国籍(U.S. nationality)」と「市民権(U.S. citizenship)」は、ほぼ同義に用いられることが多いものの、厳密には異なる概念です。米国市民権を持つ個人を「米国民」と呼ぶことが一般的です。


国籍は法的な概念であるのに対し、市民権は政治的な地位を示すものであり、その国の市民としての権利や義務を伴います。


米国では出生地主義を採用しており、米国で出生した場合や、両親のいずれかが米国市民である場合、その子は自動的に米国市民権を取得します。


米国市民は当然に米国国籍を有しますが、米国国籍を有する者が必ずしも米国市民であるとは限りません。たとえば、プエルトリコ、米領バージン諸島、グアムで出生した個人は米国市民ですが、米領サモアやスウェインズ島(米領サモアの一部、人口約17人)で出生した者は、米国国籍は有するものの、米国市民ではありません。


米国国籍のみを有し市民権を持たない者は、連邦選挙での選挙権を持たないなど、権利面で制限があります。米領サモアは、米国議会による自治法(Organic Act)が制定されていない非自治的領域(unorganized territory)であるため、他の米国領の住民とは異なり、市民権を正式には持ちませんが、実際には他領域の市民権保持者とほぼ同等の権利が与えられています。

グリーンカード(永住権)

外国人は、米国の永住権を認めるビザ、いわゆるグリーンカードを申請し、取得することが可能です。たとえば、日系の米国法人に長年勤務する日本人社員がグリーンカードを取得する例があります。


このビザを保有する者は、たとえ国外に居住していても、米国市民と同様に課税の対象となります。通常、永住権を取得してから約5年が経過すると、市民権の申請が可能になります。

税法上の居住者判定テスト

外国人が米国の税法上の居住者とされるための条件は、グリーンカード保有を除くと、以下の2つがあります。

 

居住者判定テスト
現年の滞在日数に加え、前年の滞在日数の1/3、前々年の滞在日数の1/6を合計し、それが183日を超える場合、その個人は米国の居住者と判定されます。

 

選択による居住者扱い
非居住外国人であっても、配偶者と合同で申告書を提出する場合などには、自ら選択して米国の納税者として扱われることが可能です。

日米租税条約における扱い

米国市民および米国の外国人居住者は、すべての所得について米国で申告義務があります。しかし、日米租税条約においては、「市民権」という区分は用いられず、「居住者」あるいは「非居住者」という区分が使用されます。


日米租税条約第4条第2項では、米国市民や永住権保持者について、(a)〜(c)の条件を満たす限り「米国の居住者」とされると規定されています。そのため、市民権や永住権の有無にかかわらず、租税条約上では調整規定を通じて「居住者」か「非居住者」に振り分けられ、課税関係が定められています。


第4条第3項は、日米両国で居住者となる場合の優先順位を定める振り分け規定ですが、米国市民については第2項によって居住者判定がされるため、第3項の適用対象とはなりません。

 

 

矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員

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