老老介護がもたらす精神的な苦痛
老老介護とは、介護する側、される側がともに65歳以上のケースをいう。厚労省が2023年に公表した調査では、介護を行っている同居世帯のうち、実に63.5%が老老介護だというのだ。
厚労省は同様の調査を2001年から行っているが、老老介護の割合が初めて6割を超えた。今後もその割合は増えていくのだろう。そうした老老介護には、多くの根深い問題が絡み合っている。
例えば介護する側の精神的負担は、今日の日本社会における介護問題の核心の一つだ。とくに、家族介護においては「老老介護」がもたらす精神的な苦痛は、見過ごされがちな重大な問題である。
次に挙げるのは、かつて取材した高齢者夫婦の例だ。
「朝から晩まで休まる時間がありませんよ」
そう話すのは80歳の女性。彼女は90代の夫の介護を10年ほど続けてきた。今でこそ、夫は特養に入所しているため彼女の負担は軽減しているが、かつては本当につらかったと当時の様子を振り返った。
「朝、夫が目を覚ますと、すぐに介護の日課を始めなければならなくてね」
夫が認知症を患っているため、何度も同じ質問をしてくるという。
「今日は何曜日だ?」
「ご飯はいつ?」
そのたびに妻は同じ答えを繰り返すが、次第にイライラが募る。妻が答えても夫は満足せず、また同じ質問をしてくる。この繰り返しは彼女に精神的な消耗をもたらしていることは言うまでもない。
最初は辛抱強く対応できた妻も、数カ月、数年と経つうちに限界を迎えるだろう。朝起きてから夜寝るまで、夫の世話と、同じ質問に答えることが彼女の生活のすべてになり、外出や趣味を楽しむ時間など全くないと嘆いた。
日中、夫は食事中に何度も食器を倒し、食べ物を床に落とす。それを片付ける妻は、ただ黙々と作業を続けるが、心の中では「もうこれ以上は無理だ」という思いが募っていくそうだ。
