米関税政策は幾分巻き戻しも、先行き不透明感は払しょくされず
全米供給管理協会(ISM)が公表した2025年5月のISM製造業景況指数は48.5(4月:48.7)と、上昇に転じるとの市場予想(49.5)に反して低下しました(図表1)。
5月は米中が相互に課している関税を大幅に引き下げたものの、企業の景況感は改善に至っておらず、トランプ政権の関税政策が実体経済に引き続き影響を及ぼしていることを示唆しています。
ISM製造業景況指数の構成要素のうち、新規受注指数(4月:47.2→5月:47.6)、生産/企業活動指数(4月:44.0→5月:45.4)、雇用指数(4月:46.5→5月:46.8)、在庫指数(4月:50.8→5月:46.7)はいずれも中立水準(50)を下回りました(図表2)。
ISM製造業景況指数低下の主因は在庫の取り崩しであるものの、製造業活動は低迷していることを示唆しています。構成要素のなかで唯一、中立水準を上回ったのが入荷遅延指数で、これは納入が遅延していることを示しています。
通常、納入期間の長期化は景気回復局面でみられるものの、今回は関税の引き上げに伴うサプライチェーンの目詰まり感を示しています。
構成要素以外では、価格指数(4月:69.8→5月:69.4)は小幅に低下したものの、依然として高水準にあります。鉄鋼・アルミ製品の価格上昇に加え、10%のベースライン関税などの影響が発現した可能性があります。
在庫の取り崩しが始まったことを踏まえると、今後関税の影響によりインフレ圧力が強まることになります。
現状では、製造業が雇用を大幅に削減する動きはみられないものの、関税政策を巡る不透明感が払拭されなければ、製造業活動の持ち直しは期待できないと考えられます。
5月のISM非製造業景況指数については49.9と、4月(51.6)、市場予想(52.0)をともに下回り、中立水準割れとなりました。5月に対中関税が大幅に引き下げられたものの、製造業のみならず非製造業でも景況感の悪化がみられます。
調査項目のうち、在庫指数(4月:53.4→5月:49.7)や価格指数(4月:65.1→5月:68.7)は製造業と同様、関税発動前に積み上げていた在庫を取り崩す動きや、関税発動によるコスト増大の影響が出始めていることを示唆しています。
今後、在庫の取り崩しとともに、関税引き上げによるコスト増をどの程度価格転嫁する動きがみられるのか注目されます。
また、5月は製造業、非製造業ともに雇用指数の低下は回避されたものの、関税交渉の着地点が見えておらず、労働市場の先行きに対する不透明感は根強い状況にあります。事業を取り巻く環境が厳しさを増せば、企業は雇用に対する姿勢を慎重化させたり、雇用の削減ペースを加速させる可能性があります。
同日に公表された5月のADP雇用統計では雇用の伸びが大きく減速しました(図表3)。
先行き不透明感の強い状況が長引く下で、労働市場の下振れリスクも高まっています。
東京海上アセットマネジメント
※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『【米ドル円】東京海上アセットマネジメントが振り返る…6月第1週の「米国経済」の動き』を参照)。
※本記事は東京海上アセットマネジメントの「TMAMマーケットウィークリー」の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が文章を一部改変しております。
※全文は「TMAMマーケットウィークリー」をご確認ください。
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