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想定外だった息子たちのSOS
しかし、話の最後に、次男が口を開きました。「資産の半分は残せるという話だったけれど、少し早めにその一部を受け取ることはできないだろうか」と切り出してきたのです。
なにか困っているのかと尋ねると、次男は申し訳なさそうに、コロナ禍以降の給与減に加え、物価高、住宅ローン、そして子どもの教育費という三重苦が家計に重くのしかかっている現状を吐露。「この苦境を乗り切るまで、どうか援助をお願いできないか」と懇願します。
親から子への経済的援助は、現代社会において珍しいことではありません。内閣府が実施した「高齢者の生活と意識に関する調査」では、60代以上の親の約3割が、成人した子どもに対して何らかの経済的支援を行っていると回答。特に、子どもの住宅購入費や教育費、あるいは生活費の援助が上位を占めており、親世代が子世代の経済的困難を支えている実態が浮き彫りになっています。
橋本さん夫妻は、以前専門家に老後のライフプランについて相談した際、「現状の資産状況であれば、ゆとりをもって安心して生活できるでしょう」という太鼓判を押されていました。しかし、長男の目の前で次男だけに資金援助をするわけにもいかず、返答に窮しました。すると、それまでのやり取りを聞いていた長男も、「もし余裕資金があるなら、自分も早めに贈与してもらえると非常に助かる」と申し出たのです。
「人生100年時代」といわれる現代、この先、自分たち夫婦のどちらかが介護が必要になるなど、予測できない事態が起こる可能性を考えると、橋本さん夫妻の胸には一抹の不安がよぎりました。
親心と老後資金の狭間で下した決断
橋本さん夫妻のように、退職金があっても将来への不安を抱える高齢者は少なくありません。日本総合研究所の調査によると、60歳以上の夫婦世帯の約4割が、自身の老後資金について「十分ではない」あるいは「非常に不安がある」と回答しており、特に医療費や介護費といった予期せぬ出費への懸念が高いことが示されています。現役世代の子どもへの援助は、そうした親自身の不安をさらに増幅させる一因ともなりえるでしょう。
とはいえ、長男は40歳、次男は37歳。働き盛りの世代が抱える経済的な負担の大きさは、橋本さんたちも現役時代に痛感してきたことです。息子たちの困窮した様子を目の当たりにすると、救いの手を差し伸べないわけにはいきません。そこで、将来的に夫婦のどちらかに万一のことがあった際には、息子たちが協力して面倒をみることを条件として、孫たちの学費を援助することを決断しました。
学費であれば、国税庁のHPにも贈与税がかからない財産として「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」と明記されています。ただし、これは生活費や教育費として、その都度直接支払われるものに限られます。
この援助によって、息子たちの家計の負担も少しは軽減されるだろうと、橋本さん夫妻は考えたのでした。
