言葉が誕生した95年頃以降、IoTが普及しなかった理由
IoTとはInternet of Things(モノのインターネット)の略語である。
IoTという言葉が言われ始めたのは1990年代の半ば頃、Windows95が発売されインターネットが急激に大衆化を始めたすぐの頃であった。イギリスの技術者で、RFIDやその他のセンサーの国際標準を確立したケビン・アシュトンという人が、ユビキタスセンサーを通してインターネットが物理世界をつなぐシステムをInternet of Thingsと名付けたのが始まりとされている。
だがその後、人のインターネットの世界(人間の操作するコンピュータが、地球上の無制限のネットワークであるインターネットにつながれて相互に交信し合う世界)が爆発的に普及したのに比較して、IoTは言われるだけで、それほど普及したわけではなかった。物同士の交信は、主にLAN(Local Area Network)などの閉鎖空間の中にとどまり、物(センサーや計測器、組込機器など)が直接インターネットにつながる世界は容易に実現しなかったのである。
その理由はいくつかあるが一つの大きな理由となったのは、インターネット空間が無制限であるがゆえに、危険やリスクに満ちたものであったことが挙げられる。インターネット空間のそこかしこにはハッカーやマルウエアが潜んでいて、インターネットに接続するコンピュータを狙っている。
そしてコンピュータがマルウエアに感染すると知らぬ間に自分が管理しているはずの情報(時には金銭や、重要な企業資産など)を抜き出されてしまう。場合によってはさらに自分のコンピュータのIDを使ってハッカーになりすまされ、犯罪の片棒を担がされてしまうことさえある。
こうした危険に満ちたインターネット空間の中で接続するコンピュータが自分を守っていくためには、つねに最新の防御ソフト(ファイアウォールやワクチンソフト、あるいは侵入検知のためのセキュリティソフトなど)を自身のコンピュータに実装し、さらにそれを更新し続けていかねばならない。ところが、IoTに接続する物(センサーや計測器、組込機器など)には、その能力がない。
コンピュータと比較してリソースが小さいことが多いので、十分な防御ソフトを自分で搭載できないのだ。
だから、物をインターネットに直接接続させるのは危険なことなので、十分なセキュリティ機能を実装したコンピュータが管理するLANの下に物を置いてインターネットから隔離するか、暗号機能によってインターネットから隔離されているネットワークの中に物を置いて、直接インターネットに触れないようにして運用する方法がとられていたのである。
