子育てに奮闘する中で、「うちは愛情たっぷりだから大丈夫」「子どもの気持ちを理解することが一番」と考えていませんか? しかし、ロバート・キーガン氏は、現代の親にはそれだけでは乗り越えられない、大きな壁があると警鐘を鳴らします。本記事では、同氏著『ロバート・キーガンの成人発達理論――なぜ私たちは現代社会で「生きづらさ」を抱えているのか』(英治出版)より、彼のユニークな「オートマ車とマニュアル車の運転」というたとえ話を通し、多くの親が見落としがちな、子どもを真に導くために必要な「意識の次元」について詳しく解説します。
多様化する社会で「現代の親」が直面する、子育ての「新たな課題」【ハーバード大学名誉教授が警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

現代の子育てに必要な「意識の進化」とは?

編集注

次元のマインド(意識)

多種多様なものごとの意味構築をする際に働かせている、ある共通の原理のこと。キーガンは原理には次元があると考えており、より複雑な原理を「高次元のマインド」と呼んでいる。

 

第3次元のマインド(参考元はp.124)

第2次元のマインド(1つの集合に沿ってあらゆる具体的なものごと・要素を意味構成する原理)によって形成された具体的事例を一般化すること。経験に対する品位ある、洗練された、社会性の高い意味構築の仕方を指す。1つの価値観の形成とも言い換えられ、この意識の獲得により自身を社会の一部と捉えられるようになる。

 

第4次元のマインド(参考元はp.147)

第3次元のマインドで構成した価値観を、さらに抽象的な考え方や見方のもとに比較対象として一般化する原理。複数の価値観が対立しているときに、価値観の取捨選択を可能にする。価値観や理想を、理解の主体ではなく客体として捉えることができる状態。

 

「ペアレンティング(親として役割・務めを果たすこと)とパートナリング(パートナーとして役割・務めを果たすこと)に関する要求に応えるには、第3次元の意識があれば十分か」という問いをさらに探究する前に、重要なこととして、同時に生じるこの問いを明らかにしておこう。

 

「もはや言うまでもないかもしれないが、現代のペアレンティングに要求されるものに第3次元の意識では十分応えることができないなら、第3次元の意識のルールによって世界を意味構成している場合、親になる準備ができていないということなのか」

 

この問いに対する答えは、親の意識の次元とは全く関係がなく、親が暮らす世界の性質に大いに関連している。このことを、ぜひ理解してほしい。

 

第3次元の意識をペアレンティングの領域に持ち込むこと自体には、なんら問題はない。つまり、持ち込むからといってその人について特に言うことはない。思うに、100年前には第4次元の意識を持つ人は今よりはるかに少なかっただろう。だからといって、それは当時のペアレンティングがあまりよい成果を出していなかったということではない。第3次元の意識で子どもを育てても、それをもって、その親が病気だとか、気がどうかしているとか、発達が遅れているとか、欠陥があるということにはならない。親になる準備ができていないということにも、無責任だということにも、第4次元で経験を意味構成する親ほどうまくペアレンティングができないということにもならない。

 

確かに言えるのは、第3次元ではなく第4次元の意味構成をするようになったら、ペアレンティングに伴う務めや課題に対して、見方が変わるだけでなく、より複雑な見方をすることになるということである。この差が、ペアレンティングのカリキュラムをうまくこなすうえで重要かどうかは、文化がどのようにデザインされ、第4次元の意味構成がどのようにしてできるようになるものだと文化が考えているかによる。つまり、生徒の能力だけが問題ということは断じてなく、生徒の能力と、(ほかの誰でもなく)その生徒が果たすべきだとされる務めがマッチしているかどうかが問題になる。