子育てに奮闘する中で、「うちは愛情たっぷりだから大丈夫」「子どもの気持ちを理解することが一番」と考えていませんか? しかし、ロバート・キーガン氏は、現代の親にはそれだけでは乗り越えられない、大きな壁があると警鐘を鳴らします。本記事では、同氏著『ロバート・キーガンの成人発達理論――なぜ私たちは現代社会で「生きづらさ」を抱えているのか』(英治出版)より、彼のユニークな「オートマ車とマニュアル車の運転」というたとえ話を通し、多くの親が見落としがちな、子どもを真に導くために必要な「意識の次元」について詳しく解説します。
多様化する社会で「現代の親」が直面する、子育ての「新たな課題」【ハーバード大学名誉教授が警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

親自身が「ギアチェンジ」する能力が求められる

さて、このたとえ話からわかることは何か。私は次のように考えている。ペアレンティングにおける重要な特徴――制限を設ける、役割を生み出す、境界をマネジメントする、関係を調整する、態度を明確にする、成長を促す――は、第4次元の意識が不可欠であると同時に、家族の運営(オペレーション)という領域につきものだと思われる。ちょうど、ギアチェンジが車の操作(オペレーション)という領域についてまわるのと同じように。これは、親が第4次元の意識で行動できなければ家族を立派に「運営」できない、という意味だろうか。

 

答えはノーだ。それは、ドライバーがギアチェンジできなければ車をきちんと操作できないのと同じ意味でしかない。では、第4次元の意識を持つ親は必ず子育てに成功するという意味だろうか。この答えもノーだ。ギアチェンジできるドライバーなら常に注意深く運転するだろうというのと同じ意味でしかない。ただし、車(家族)がきちんと操作(運営)されている場合には必ず、モノ(人)によってギアチェンジが行われる(第4次元の意識が使われる)ようだ、という意味ではある。

 

こう言ってもいい。何としても避けたい状況、それは、AT車しか運転できない親がいつのまにかMT車のハンドルを握り、しかもその車に子どもたちが乗っているという状況だ、と。

 

そんな最悪の状況は、滅多にないことなのか、それともよく起こることなのか。この問いはきわめて重要だ。ただしそれは、MT車のハンドルを握っていると気づいて動転している親を非難するものではなく、隠されたカリキュラムの要求に応えるにあたり、私たちの文化が差し出す支援が十分かどうかを、私たちがともに考えるために、私たち全員に投げかけられた問いである。

 

この問い――ふと気づけば、子育てにおける重要な務めを果たすための準備が、親の中にも外にもできていなかったという状況は、どれくらい頻繁に起きているのか、という問い――については、後章でより詳しく答えを探っていく。ただ、その答えは不安をかき立てられる答えなので、今から備えておくために、外的な支援が私たちがふつう思い浮かべるのとは全く違う方法でなされることについて、ここで少し考えておこう。