(※写真はイメージです/PIXTA)

パートやアルバイトとして働く人にとって、収入の「年収の壁」は大きな関心事のひとつです。一定の収入を超えると税負担や社会保険料負担が増え、かえって手取りが減ってしまうこともあります。3月31日に可決した令和7年税制改正では、この「年収の壁」に大きな変化があり、パート・アルバイトの方々がより柔軟に働けるような環境が整えられることが期待されています。令和7年度税制改正の内容をもとに詳しく解説していきます。

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所得税の計算方法と「年収の壁」の仕組み

はじめに、所得税の計算方法について整理します。所得税は、収入から一定の控除を差し引いた「課税所得」に対して税率をかけて計算されます。たとえばパートやアルバイトで得た給与は「給与収入」として扱われ、そこから給与所得控除や基礎控除、配偶者控除、扶養控除などを差し引いた後の金額が「所得」となります。これに応じた税率が適用されて、最終的な税額が決定します。

 

今回の税制改正では、「所得控除」に関する変更があり、「年収の壁」と呼ばれる制度にも大きな影響を与える内容となっています。

基礎控除の引き上げ

これまでの基礎控除は、年間所得が2,350万円以下の方を対象に一律48万円が適用されていました。令和7年からは、この基礎控除が58万円に引き上げられます。

 

この改正により、非課税となる額が10万円増えるため、その分手取りが増えることになります。たとえば、所得税率が10%の方であれば約1万円、15%の方であれば約1.5万円の税負担が軽減されることになります。

給与所得控除の増額と年収103万円の壁の変化

これまで給与収入162.5万円以下の場合、給与所得控除は一律55万円でしたが、今回の改正で65万円に引き上げられました。これにより、所得税が発生しない年収の基準が103万円から123万円に変更され、いわゆる「103万円の壁」は実質的に「123万円の壁」へとシフトします。税金面での「年収の壁」が事実上引き上げられました。これまでよりも多くの収入を得ても、税負担が発生しにくくなるため、働く時間を増やす選択がしやすくなります。

配偶者控除・配偶者特別控除の拡充

配偶者控除および配偶者特別控除にも変更が加えられました。特に配偶者特別控除については、これまで配偶者の年収が150万円を超えると控除額が段階的に減少していましたが、今回の改正で年収が188万円までは控除が適用されるようになりました。

 

これまで配偶者の年収が150万円を超えると控除額が徐々に減少していきましたが、新制度では控除がより長く適用されるため、家庭の収入が増えた際の影響を緩和することができます。

学生アルバイトの扶養控除の変更

扶養控除についても変更があります。これまでは、学生アルバイトの年収が103万円を超えると、親の扶養控除(最大63万円)の対象から外れてしまいました。しかし、今回の改正では、扶養控除が適用される年収上限が123万円まで引き上げられます。学生アルバイトの方がより自由に働ける環境が整い、学費や生活費を自力で補うことがしやすくなります。

社会保険の「年収の壁」は据え置き

社会保険料は、従業員の自己負担だけでなく雇用主側の負担もあるため、働き方を考える際の重要な要素です。所得税の改正が行われた一方で、「社会保険の壁」は今回の改正では変更されていません。

 

ただし、2024年10月から社会保険の適用が拡大されています。

 

・従業員51人以上の企業に勤める場合:年収106万円を超えると社会保険に加入

 

・従業員50人以下の企業でも:年収130万円を超えると加入義務が発生

 

社会保険に加入すると、本人負担だけでなく企業側の負担も発生するため、企業の雇用方針や労働時間にも影響を与える要素となっています。

 

令和7年税制改正がもたらす影響

今回の税制改正により、103万円の壁が123万円に引き上げられ、パート・アルバイトの方々がより働きやすくなりました。基礎控除が48万円から58万円に、給与所得控除が55万円から65万円に増額されることで、より多くの収入を得ても税負担が軽減される仕組みになっています。

 

また、配偶者特別控除の適用範囲が広がり、配偶者の年収が188万円までであれば控除が受けられるようになります。学生アルバイトの扶養控除についても、年収123万円までは適用されることとなり、より柔軟な働き方が可能になります。

 

一方で、社会保険の壁については変更がなく、106万円または130万円を超えると社会保険の加入義務が生じるため、慎重に年収の計算をする必要があります。社会保険料の負担は大きく、手取りが減る要因となるため、これからも注意が必要です。

 

今回の改正により、非課税額が20万円増加し、その分の税負担が軽減されます。たとえば、税率が10%の方であれば2万円、住民税も加味すれば4万円程度の手取り増加が見込まれます。

 

これは大きなメリットではないかもしれませんが、生活の負担を少しでも軽減する要素となるでしょう。物価の上昇が続くなかで、可処分所得が増えることは家計にとってプラスの要素です。特に、配偶者や学生アルバイトがいる家庭では、収入の上限が引き上げられたことで、これまでよりも働く選択肢が広がります。

 

とはいえ、社会保険の壁は依然として存在しており、これを超えると手取りが減る可能性があるため、総合的に判断しながら働き方を決めることが大切です。

 

税制改正は、私たちの働き方や生活に直接影響を与える大きな要素です。今回の改正がどのように影響するのかを理解し、今後の働き方や収入計画を立てる際の参考にしていただければと思います。

 

 

岸田 康雄

公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

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★令和7年税制改正大綱の内容をもとに「年収の壁」について解説!

知らないと大損!令和7年税制改正で変わる「年収の壁」【税理士が解説】

 

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「年収の壁」で損するな!103万・106万・130万の壁で社会保険と税金はどうなる?

 

 

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