苗場にはびこる「0円物件」の実態
それは単に思い込みだけで語っているわけではなく、ある一つの根拠がある。
近年では、価格がつかなくなった不動産を、売買価格を0円にして取引する事例が増えてきた。あるいは通常の不動産売買であれば慣例的に買主が負担していた様々な手数料や諸費用を、逆に売主が負担することによって、事実上の無償譲渡が行われる事例まである。
そうした0円の物件を専門的に案内するサイトも複数存在し、時には苗場のマンションも0円物件として登場する。不思議なことに苗場においては、あれほど大量の10万円のマンションが在庫として積みあがっているにもかかわらず、0円となると大きな注目を集めるようで、物件掲載後、それほど時間が経過しないうちに取引が完了するケースが続いている。
しかし、巷にある0円取引サイトの運営企業は、一般の不動産業者のような仲介業務を行っているわけではない。不動産取引の知識を持たない利用者のために、オプションとして有償のサポートを行ったりすることはあるが、基本的にはいずれのサイトも個人間取引の形態で行われている。
一般的な不動産取引における「仲介手数料」は物件価格に応じて算出される。取引価格に応じて仲介手数料の上限は宅建業法で定められており、価格が安いからと言って上限を超えた手数料の請求を行うことは認められていない。0円物件サイトの運営者も営利企業であり、物件そのものに価格がつけられない以上、責任が発生するだけでそれに見合った手数料が得られないのだから、「仲介」に入らないのは仕方ない。
現状の法制度では、価格の安い物件の仲介業務だけでは事業が成り立たないので、不動産の流通のためにも、0円物件のサイトのような取引の仕組みそのものは今後ますます必要になっていくと僕は考えている。
しかし、どんな物件であれ売主にせよ買主にせよ、皆が必ずしも十分な不動産知識を持っているわけではない。プロが介在しない個人間取引では、本来、宅建業者が仲介を行う際は必ず必要になる説明義務が一切果たされないまま取引が行われてしまうことがある。
別荘地でも同様の事例を聞いたことがあるが、最もひどいケースでは、マンションには管理組合が存在し、管理費や修繕積立金の納入が必要になることすら知らないまま購入し、入居する人がいるという。分譲マンションと縁のない生活をしてきた人であれば、こうした知識を持っていないことは十分考えられる。
新しく住民が入ってきたものの、最初から管理費も修繕積立金も、一切の支払いが行われないので、催促のために管理組合がその新住民を訪問すると、「そんなのあるのですか」と逆に驚かれる。そこで話がこじれて管理費の支払いを拒絶されるようなケースは少ないようだが、想定していなかった毎月の管理費の支払いは、購入者にとっても不本意な話であろう。
