不便でも苗場のマンションを選択する高齢者たち
越後湯沢駅から苗場までは、一応路線バスが今も運行されているものの、その本数は、オフシーズンの平日では1日片道8本で、片道40分ほどの時間を要する。そして苗場エリアには、スーパーマーケットだけでなく、コンビニエンスストアもないので、ごく限られた日用品を除き、買い物のためには湯沢の町まで下りてくるしかない。
越後湯沢駅と苗場エリアを結ぶ国道17号線は、降雪期間は連日除雪しているので、雪に閉ざされて移動できないということはないにせよ、便利とは言いがたいだろう。だからこその一律10万円という現状なのだが、住居費用を抑えるための移住者と言っても、準備できる予算は個人差があるため、中にはどうしても10万円の部屋でなければならない、という方も当然存在する。
越後湯沢駅や岩原スキー場前駅周辺の低価格マンションは、マンション自体の価格は安くても、管理費が月々2〜3万円に及ぶものが多い。一方、苗場にあるマンションのうち古いマンションは、共用設備が乏しいために管理費が安く抑えられているところがある。
貯えも少なく、ほぼ年金収入のみで生計を立てなければならない高齢者にとっては、大浴場やスポーツジムなど無用の長物であって、それで管理費の安い苗場のマンションを選択するというわけだ。
僕が話を聞いたある地元関係者は、歩くのにも不自由しているような高齢者もいると言い、そういう方が、深い雪に閉ざされた苗場のマンションで余生を過ごす様子を見て、果たしてご本人にとって最善の選択であったのか、複雑な思いに駆られると語っている。
それでも本人が納得のうえで移住をしているのならまだ良いのかもしれない。しかし、湯沢のマンション市場全体で見ればそのような選択をする高齢の移住者は限定的で、戸数が数百に及ぶリゾートマンションにおいて、定住者は数名、しかもその全員が高齢者という状況では、そのマンションの将来は極めて危うい、と僕は思う。
なぜならその状況では、多額の持ち出し費用を投じて大規模修繕が施される未来が想像できないからだ。おそらく解体の合意を取り付けるのも困難だろう。
また、ある苗場の事情に詳しい方は、苗場の10万円のマンションを選択する高齢の移住者の皆が皆、苗場の地理的条件や気候を熟知し、そこで暮らす覚悟を持ったうえで移住してきているようには見えなかった、と語る。
10万円という価格が最大の決め手で、その後、冬を迎えて想像以上に厳しい苗場の気候を目の当たりにしても、すでに他に移り住むあてもなく、不便に耐えながら暮らしている印象を受けることもあるとのことであった。
