日本の企業の多くは60歳定年制を採用していますが、その後、希望したら再雇用で働き続けることができる、というのがよくあるパターンです。しかし再雇用を機に契約社員や嘱託社員となるため、給与は大幅減。職務内容も変わることが多く、「長年働いてきたキャリアが生かせない」とか「こんな安い給与で働いていられない」と、転職を試みる人も。しかしシニア社員の転職は、かなり厳しいものであることを知っておいたほうがいいかもしれません。
裏切られた気分です…〈月収60万円〉〈勤続38年〉、会社に尽くしてきた60歳サラリーマン、提示された再雇用後の給与額に憤慨。転職を試みて125社応募も撃沈「何かの間違いでは?」 (※写真はイメージです/PIXTA)

ハローワークで感じた高齢者の転職の難しさ

大学卒業以来、働いてきた会社を辞めて、定年とともに転職をすることを決意した池田さん。そもそも、定年で仕事を辞めるという選択はなかったのでしょうか。

 

――年金を受け取るようになるのは65歳じゃないですか。それまで無収入というのは不安ですよね

 

ヒューマンホールディングス株式会社が65~74歳の男女に対して行った調査によると、定年後に働く理由として、トップは54.6%で「生活費を得るため」。43.0%「社会とのつながり」、42.1%「身体的健康を維持するため」と続きます。働く理由がたったひとつ、とは限らないので確実なことはいえませんが、お金のために定年後も働く人は相当数いることがこの調査からもわかります。

 

定年まで残り4ヵ月というタイミングで、再雇用から他社への転職を決断した池田さん。まずは転職サイトに登録し、希望条件に合致するところを慎重に選び、応募していきます。しかし、なかなか書類審査が通りません。「条件が厳しすぎたかな……」と、条件を緩めて応募するも、なかなか書類審査が通りません。履歴書や職務経歴書をサイトにアップしたら、簡単に応募できるからでしょうか。気づけば125社にも応募していたといいます。しかし、書類審査が通ったのは2社。しかも1つの求人に何十人と応募しているらしく、その2社も1次面接を突破することはできませんでした。

 

池田さん、業界ではそれなりのキャリアを積んでいるつもりです。このキャリアをしっかりと活かしていきたい……そのような高い志で転職採用をしていますが、125社も応募していまだ1社からも声がかかりません。どうしても納得がいかず、「何かの間違いでは……」と首をかしげるばかりだったといいます。

 

定年のタイムリミットは過ぎ、池田さんはハローワークへ。ここで相談してみることにしたといいますが、担当者からひとこと。

 

――事務職は人気があるので、なかなか難しいですよ。ひとつの求人に何十人と殺到するので

 

やはりそうなのか……高齢者の転職の現実を目の当たりにし、「納得いかなくても会社にしがみつくべきだったか」と後悔の念を抱いているといいます。

 

労働市場における年齢層ごとの求人数と求職者数の比率を示す重要な指標である有効求人倍率。若年層では比較的高い有効求人倍率が維持され、2024年9月のデータでは「20〜24歳」の有効求人倍率は1.5倍を超えることが多くあります。

 

30代から40代は、求人数が安定しているものの、求職者数も増加しているため、倍率はやや低下傾向。「35〜44歳」の層では、倍率が1.0〜1.2倍程度で推移しています。そして「45歳以上」の年齢層では、有効求人倍率が低下する傾向にあります。特に55歳以上の層では、倍率が1.0未満になることも珍しくなく、高齢者の転職は厳しさを物語っています。

 

――どのような仕事ならあるんですか?

 

と尋ねると、「飲食店とか……あと、介護とか、求人数も多いですよ」と担当者。体力に自信がない池田さん。求人が多くても、これまでのキャリアを生かしづらい職業への転職については、今のところネガティブです。

 

 

[参考資料]

厚生労働省『令和6年高年齢者雇用状況等報告』

ヒューマンホールディングス株式会社『シニアの仕事観とキャリアに関する実態調査2025 vol.1』