(※写真はイメージです/PIXTA)
「まだ大丈夫」と見逃した父の異変
「あの時、もっと強引にでも通帳を取り上げていれば……。父のプライドを守ろうとしたことが、結果的に父を追い詰めてしまいました」
都内のメーカーに勤務する加藤真由美さん(48歳・仮名)は、3年前に他界した父・正一さん(享年81・仮名)との日々を振り返ります。正一さんは元銀行員でした。退職後も几帳面に家計簿をつけ、資産運用を趣味にするような「お金に厳しい人」だったといいます。
異変の兆しは、真由美さんが盆休みに帰省した際に現れました。いつもならピカピカに磨かれているはずの玄関の靴が乱れ、居間のテーブルには飲みかけのペットボトルが数本放置されていたのです。
「お父さん、ちょっと片付けようか?」
「ああ、悪いな。最近、どうも腰が重くていかん」
正一さんは穏やかに笑っていましたが、会話の中で同じエピソードを15分の間に3回も繰り返したことに、真由美さんは胸のざわつきを覚えました。しかし、「元銀行員の父が認知症になるなんてない」という根拠のない確信が、その違和感に蓋をさせたといいます。
決定的な事件が起きたのは、その半年後です。正一さんの自宅ポストに、見慣れない不動産会社からの「重要書類」が届いているのを真由美さんが発見しました。中を確認すると、正一さんが所有する地方の土地を担保に、分不相応なリフォーム契約を結ぼうとしている形跡があったのです。
「お父さん、これ何?」
「……ああ、それか。営業の人が熱心でな。屋根を直さないと家が崩れると言われて、つい」
正一さんはうつむき、顔を上げてくれません。かつての鋭い眼光は消え、そこには判断力を失い、何かに怯える老人の姿がありました。慌てて通帳を確認した真由美さんは愕然とします。数年前まで3,000万円近くあった老後資金が、わずか1年で1,000万円以上も減っていたのです。
使途不明の引き出しが重なり、なかには怪しげな投資信託や、使い道のない高額な健康器具の購入履歴が並んでいました。
「父の自尊心を傷つけたくなくて、お金の話を避けてきました。でも、父に変な遠慮をしていた間に、悪意ある業者や認知機能の衰えに付け入る隙を与えてしまったんです」
正一さんの死後、解約しきれなかった複数の契約書を前に、真由美さんは再び立ち尽くすことになったといいます。