近年、部長職などを担うポストを経験する年齢が若返った結果、より評価される環境を求め転職を考える中高年世代の会社員が増えています。しかし、特にシニア世代になると「客観的評価と自己評価のギャップ」が命取りになることも多いようで……。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長の福留拓人氏が、中高年の転職の実態について詳しく解説します。
俺の能力がわからない会社なんて辞めてやる…年下にポストを奪われた50代会社員の愚かな決断→一家離散の大惨事も。不満があっても〈1年〉は現職にしがみつくべき理由【人材のプロが助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

安易な転職はNG、現職に1年はしがみつくべき理由

こうなったときに多くの人が怒り、苦しみ、悲しさを感じます。自分はなにも悪いことをしていないし、与えられた直近の業績も達成している、という強い反発も感じます。

 

そうなると、「もっと自分を高く評価してくれる会社があるはずだ」と思って、転職ありきで打って出ようとする人が多いのです。私がそういう場合に伝えているのは、「よほどの自信や確信がないときには、現職に1年はしがみついてください」ということです。

 

たとえば倒産する会社のように前途にまったく希望がない場合は仕方ないですが、会社が存在しているのなら罵倒されてもなにをされても、1年は自分からしがみつくということです。つまり、すぐに打って出ないということが大切なのです。

 

例えば50代だとすると、昔はいざ知らず、いまは晩婚化が進んで小さな子どもを育てているケースも珍しくありません。ですから収入を下げるとか、仕事を辞めることなどを考えることはありません。それができるのは裕福なごく一部の人だけでしょう。仕事以外に家庭や育児の苦労を抱えてストレスに苛まれている人はたくさんいます。

 

やはり人間は追い詰められたりして形勢が不利なときは、隣の芝生が青く見えて、短絡的・瞬間的な判断をしようとします。それにより、多くの人が悪い展開に追い込まれてしまいます。安易な独立なども避けるべきでしょう。

 

要はいまの会社とケンカをしないことです。1年くらいの時間をかけて、主観で感じて仮説を立てている自分の能力や実績を現在の所属先がどのくらい評価してくれているのか。その実際の活動を通したデータ(結果)を見てから判断したほうがよいということです。

 

愚の骨頂は、すぐに現職を辞めて就職活動をするということです。会社を辞めて割増された退職金と雇用保険をもらいながら活動すれば、どこかでうまくいくだろうという考えは最も状況を悪くします。次の就職先が見つからない人はたくさんいます。よほどの能力や実績を持つ専門職などでないと難しいことになります。

 

自治体の首長選挙と同じで、現職は有利で強いのです。現職で辞めなくてもよい優秀な人に来てほしいというオファーと、行くところがなくなって辞めることを考えている人に対する見方はまったく違います。終わりが決まっている人が交渉で有利になることはまずありません。

 

そして特徴的なことですが、シニアのみなさんは自分のことを過大評価しがちです。有名な大企業の社員の方は、その大企業の看板が取れたとき、自分の能力がどれくらい他社で評価されるのか知るべきです。言うまでもなく驚くほどシビアなことが多いので、そういった活動のデータから学ぶことも意義があるでしょう。