近年、部長職などを担うポストを経験する年齢が若返った結果、より評価される環境を求め転職を考える中高年世代の会社員が増えています。しかし、特にシニア世代になると「客観的評価と自己評価のギャップ」が命取りになることも多いようで……。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長の福留拓人氏が、中高年の転職の実態について詳しく解説します。
俺の能力がわからない会社なんて辞めてやる…年下にポストを奪われた50代会社員の愚かな決断→一家離散の大惨事も。不満があっても〈1年〉は現職にしがみつくべき理由【人材のプロが助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「自分の能力への過大評価」に要注意

このように、私はしがみついてでも解雇されないうちは会社に留まり、時間をかけて作戦を立てることをおすすめします。いまのうちに退職金をもらって辞めたほうが得と打って出た人の9割は、展開が悪いということをこれまで見てきました。私の体験値ですが10年以上は見ています。

 

その結果、自分で自分を客観的に見るということがどれだけ難しいかということを感じています。それができる人は非常に少ないと断言できます。

 

結婚相談所で同じような話を聞くのですが、40代から50代の男性が初婚で活動するにあたって、お相手は20代後半の女性がよいと希望するそうです。相手の女性の立場になって「なぜ40代から50代の人を選ばなければならないか」というと、かなりの資産家であるなどの背景があれば別かもしれませんが、普通は年齢のバランスとしてあり得ません。

 

仮に男女を入れ替えても同じだと思います。女性が40代から50代でお相手の男性は20代がよいと希望しても、例外的なケースを除いてはマッチングしにくいのが現実です。年齢的にバランスが取れません。しかし婚活しているシニアは「見た目より内面は若いといわれます」とアピールします。自分が主観で見ているものと、他人がどう評価するかは違います。

 

有名大企業の経理部に勤務して「私は何百億円もの資金を動かしてきました」とアピールしても、その人はそのお金を持っているわけではありません。あくまでも会社のお金を扱っているというだけです。もしも大企業から中小企業に再就職したらどうでしょう。そんな大金は動きません。勤務先の規模や環境が変われば経理部長として役に立つかどうかも疑問です。

 

ところが、自分を過大評価している人は自分の力を発揮できると思い、安易に転職をしようとするから展開が悪くなるのです。シニアになると「俺の能力がわからない会社が悪い」と考えるようになってしまいがちです。

 

そこで転職に打って出たい気持ちはわかりますが、家計の事情や家族とのコミュニケーションなども考慮して行動するべきです。ここで失敗すると、一家離散などのリスクも生まれてしまいます。よほどの自信がなければ、仮に社内で誹謗中傷されてもしばらくは現職にしがみついて様子を見てみることを推奨します。

 

 

福留 拓人

東京エグゼクティブ・サーチ株式会社

代表取締役社長