(※写真はイメージです/PIXTA)
地方企業の「強烈な採用」が始まっている
企業間の格差は、売上や利益だけでなく、人材採用に投じられる経営資源にも大きく表れるようになりました。
とりわけ採用市場では、都市部の大企業や外資系企業でさえ人材確保に苦戦する時代です。
その影響は、いわゆる「地方の雄」と呼ばれる優良企業にも及んでいます。企業としての魅力や実績があっても、地方にあるというだけで候補者の選択肢から外される。こうした状況のなかで、採用のハードルは年々高くなっています。
しかし一方で、ロケーションの不利を前提に、発想を根本から切り替えた地方企業も増えています。「選ばれるのを待つ」のではなく、「こちらから本気で口説きにいく」採用へと舵を切っている、その例を見ていきましょう。
1. 社長が自ら出向いて「出張面接」
有望な人材に対して、候補者の居住地や勤務地までオーナー社長自らが出向き、一次面接を行う。こうした採用スタイルをとる地方企業が出てきました。
地方の有力企業は、東京などの大都市ほど数が多くありません。また、その土地では尊敬を集める「地元の名士」のような存在であることもあります。そのため、かつては「なぜウチに入りたいのか?」という、企業側が選ぶ前提の保守的な面接が一般的でした。しかし、その時代はすでに終わりつつあります。
採用環境の変化を素早く捉えた経営者は、一次面接の段階から候補者の能力や人柄を見極めつつ、自社の魅力を自らの言葉で伝え、動機付けを行うという姿勢に切り替えています。例えば、二次面接以降は旅費交通費を企業側が負担し、会社見学に招く。「来てもらう」のではなく、「迎えに行く」。この姿勢の転換が、地方企業の採用では増えてきているのです。
2. 支度金・厚遇による不利の補填
支度金は入社・入職にあたって、最初にかかる出費を補うために会社が出す一時金のこと。ヘッドハンティングの世界ではよく使われている手法ですが、この支度金を大胆に活用する地方企業も出てきています。
たとえば、有名企業に在籍する人材を迎える場合、転職後の給与水準が一時的に下がるとしても5年間は現職年収との差額を特別賞与として補填する。そのほか、単身赴任にかかる全費用の負担や家族が二重生活を強いられる場合の補填。さらには、月2回相当の家族往復交通費の負担や転居に伴う家財購入費(100万〜200万円)の支給まで。
客観的に見れば「大盤振る舞い」といえるでしょう。企業側は、それが人材獲得のための“投資”であることを理解しているのです。候補者の心を動かすために、条件面でも、演出面でも、徹底的に工夫する。ここまで踏み込む地方企業も出てきています。
3. 家族・教育環境まで含めた採用戦略
地方企業への転職では単身赴任が前提になることもある一方、家族一緒での転居を望む候補者も少なくありません。「離ればなれは嫌だ」という考え方は自然なもので、特にネックになりやすいのが、子どもの教育環境です。
ここに目を向け、地元の有力進学校や進学塾の情報を整理し、場合によっては住居の斡旋や通学利便性まで含めて支援する企業もあります。地方の有力企業は、地域社会に強い影響力を持っていることが多く、そのネットワークを活かしたサポートが可能なのです。
いわゆる「嫁ブロック」によって転職が頓挫するケースは少なくありません。そこで、候補者本人だけでなく、配偶者、とくに教育面を気にする奥様の不安を先回りして解消する。こうした発想が、採用成功の分かれ目にもなってきています。
転職者側が意識すべきこと
このように、ロケーションという不利を挽回しようと、採用に本気で投資する地方企業は確実に増えています。かつてはエージェントが助言していた施策を、今では企業自身が主体的に実行する時代です。
もはや「うちは地方だから仕方がない」という言い訳は通用しません。優秀な人材に出会えたとしても、売り手市場にふさわしい覚悟と準備がなければ、最終的に選ばれることはないでしょう。出遅れを感じている企業こそ、手遅れになる前に、採用における最大限の努力を始めるべき時期に来ているのです。
こうした採用環境の変化は、企業だけでなく、転職者側にも確実に影響を及ぼしています。そこで最後に、これから転職を目指す人が意識するべき点をまとめました。
①「地方企業=条件が劣る」という前提を疑う
これまで給与や福利厚生、家族面での負担は「地方だから仕方がない」とされがちでした。しかし現在は、企業側がロケーションの不利を補う前提で条件設計をしているケースも増えています。最初から選択肢から外してしまうのは、機会損失になりかねません。
② 交渉は“わがまま”ではなく、当たり前のプロセス
出張面接や支度金、家族支援などは、特別扱いというより「優秀な人材を迎えるための投資」です。転職者は遠慮しすぎる必要はなく、家族構成や生活上の制約を正直に伝えたうえで、どこまで支援が可能かを冷静に確認すべきでしょう。
③ 会社だけでなく「生活全体」を見て判断する
仕事内容や年収だけでなく、住環境、家族の負担、教育環境まで含めて検討できる時代になっています。企業がそこまで踏み込んで提示してくる場合、それは長期的に人材と向き合う意思の表れとも受け取れます。
大切なのは、条件に振り回されることではなく、自分と家族にとって何が現実的で納得できる選択かを、冷静に見極めることだといえるでしょう。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長