(※写真はイメージです/PIXTA)

78歳母の預貯金が300万円しかなく不安になるAさん。万が一の場合は資金源として実家を売却することに母にも弟にも賛同してもらいましたが、母が認知症になり判断力が落ちると売却困難になる場合があると聞き、頭を抱えています。本稿ではエッサムによる書籍『改訂新版 図解でわかる家族信託を使った相続対策超入門』(あさ出版)から一部を抜粋・再編集し、家族が認知症になった際の相続対策について事例を用いて解説します。

事例:母名義の実家を売却して母の介護施設入居費用にあてたい長男Aさん

Aさんは長男で、弟がいます。2人とも結婚、独立してそれぞれの家族と暮らしています。

 

気にかかるのが、亡き父から相続した実家で暮らしている78歳の母のことです。Aさんも弟も実家から車で1時間以内のところで暮らしているので、母とはたびたび会って様子はわかっていますが、最近はこれから先のことを心配しているようです。

 

というのも、生活費は年金で賄えているものの、財産といえば預貯金300万円程度と、これから先、病気を患ったり、介護が必要になったりしたときには心細い状況だからです。

 

そこでAさんは、万が一、病院の入院費や介護施設入居費の捻出が必要になったときは、実家を売却することを提案したところ、母や弟も賛成してくれました。

 

ただ、実家の売却は、母が認知症などで判断能力が落ちてしまうとむずかしいと聞き、このアイデアが実現できるのかどうか悩んでいます。母が元気なうちに実家を売却するとしても、その後に母が暮らす家がなくなってしまうため、八方塞がりに思えてきました。

認知症に備えるには、委託者を母にした家族信託を

Aさんのケースでは、母名義の実家と預貯金を家族信託にすることが有効な方法です。母の判断能力が低下しても、受託者が実家の売却等を行えるため、その売却益を介護施設等の入居費用にあてることができます。この場合、次のような設定になります。

 

  • 委託者……母
  • 受託者……Aさん(もしくは弟)
  • 受益者……母

 

認知症等に備えるためには、委託者と受益者を同一人物にすることがポイントです。「自分のために、自分の財産を受託者に預ける」ということです。

 

委託者と受益者が別の人物の場合、家族信託を結んだ時点で100%贈与だと判断されて贈与税が課せられますが、Aさんのケースでは委託者と受益者が母ですから、贈与税はかかりません。実家など不動産を信託財産にする場合、登記をして不動産を受託者の名義に書き換える必要があります。

 

これは、成年後見制度とは違う点です。成年後見制度では成年後見人等に不動産の管理を任せることはできても、名義の変更はできません。一方、家族信託の場合は不動産の名義を受託者にできます。なお、家族信託は受託者に信託財産の管理・処分権限を委託するものですから、受託者の判断で実家を売却することができます。

 

また、母が「1人で暮らせるうちは自宅にいたい」と強く望んでいる場合などは、「介護施設等に入居することで自宅に居住しなくなった場合に売却する」などと信託契約書で条件を定めておくこともできます。

 

実家の土地が借地の場合には地主に建物の登記名義を受託者に変更する旨を連絡、またマンションの場合には管理組合に連絡して承諾を得ておきましょう。登記の変更後は、不動産にかけている火災保険の保険会社にも連絡します。

 

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※本連載は、エッサムによる書籍『改訂新版 図解でわかる家族信託を使った相続対策超入門』(あさ出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

改訂新版 図解でわかる家族信託を使った相続対策超入門

改訂新版 図解でわかる家族信託を使った相続対策超入門

【著者】株式会社エッサム/税理士法人チェスター 【監修】司法書士法人チェスター 【編集協力】円満相続を応援する士業の会

あさ出版

生前に信託契約をつかって相続の道筋をつける家族信託。 本人の遺志を明確にし、相続トラブルや死後の遺族に対する不安を解消する相続対策が注目を集めている。 本書は、相続に強い税理士法人&司法書士法人チェスターの監修…

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