節約しながら充実の老後を送っていたが…
Aさん夫婦は、都内近郊の静かな住宅街に住む60代の夫婦です。結婚して40年、子育てを終えてようやく肩の荷もおり、夫婦2人で穏やかな日々を送っていました。
夫のAさんは、数年前に定年退職し、年金を主な収入源にしています。退職後は「第二の人生」を満喫しようと、週に1回は友人とゴルフに出かけることが趣味でした。「適度な運動が健康によい」と、ゴルフ以外にも朝のウォーキングを日課にしていました。
妻のBさんは、専業主婦として家庭を支えてきました。結婚後も子育てをしながら家事をこなし、地域のボランティア活動にも参加するなど、活動的で健康に自信を持っていました。やりくり上手のBさんは、節約をしながら日々の生活を楽しむ術を知っています。限られた老後資金。夫婦2人が受け取る年金は月額21万円。欲をいえば海外旅行などに気軽に行けるほど余裕があればとは思うものの、穏やかに暮らす分には問題ありません。「まだまだ若いわよ」と笑いながら、料理教室に通ったり、友人とカフェでおしゃべりを楽しんだり、充実した毎日を過ごしていました。
2人の共通の趣味はガーデニングで、庭の手入れを一緒に行うことがお互いの楽しみでした。「次はなにを植えようか」と考えながら、季節ごとに花や野菜を育て、収穫したものを食卓に並べることが喜びでした。夫婦間の会話も多く、生活に大きな悩みや不安はありませんでした。
妻が車椅子生活に
そんな平穏な生活が一変したのは、ある秋の日のことです。Bさんはいつものように洗濯物を干すために2階へ上がろうとした際、階段で足を滑らせて転倒してしまいました。Bさんの悲鳴に駆けつけたAさんは、なんとかBさんを車に乗せて病院へ向かいました。結果、診断は「大腿骨の骨折」とのことでした。
医師からは「高齢者の骨折は治癒に時間がかかるため、長期間のリハビリが必要」と告げられ、Bさんは大きなショックを受けます。さらに、治療の過程で「骨粗しょう症の兆候がある」との指摘も受け、今後の生活に制約が生じることが予想されました。
退院後、Bさんは車椅子生活を余儀なくされました。自宅内でも動き回ることが難しく、家事の一部や趣味だったガーデニングは夫に任せることに。活動的だったころの自分を思い出すたびに、Bさんの自然と目には涙があふれ、心には喪失感が広がるのでした。