老後資金はどれくらい必要なのでしょうか? 総務省の家計調査によれば、無職の高齢夫婦世帯の平均消費支出は月額約25万円。一方、年金などの実収入は平均月額約21万円と、毎月約4万円の赤字になってしまいます。この差額を補うためには、退職後20年間で約960万円の貯蓄が必要となりますが、この数値は健康で過ごすことができた場合であり、心身の健康を損なってしまった際には支出が増えてしまうことも……。今回はAさん夫婦の事例とともに、最期までに上手く老後資金を使う方法についてCFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
元気なうちにもっと楽しんでおけば…年金月21万円、60代・節約夫婦の後悔。健康を失った妻が決めた「老後資金の衝撃の使い道」【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

突然の出費に対応するには

Aさん夫婦の場合、妻Bさんのケガをきっかけに治療費や住宅の改修費などがかかるようになりました。加えて、心の平穏を取り戻すべく絵画の購入という想定外の支出も発生することとなりました。このように、長い人生のあいだには予想もしていなかった事態が起き、突発的な出費がかかることも考えられます。突発的にかかる費用で代表的なものは下記のとおりです。

 

・医療費

・自然災害による自宅の修理費

・冠婚葬祭費

・家電、車の故障

 

これらは、「いつ、いくらかかる」のかが読みづらく、老後をはじめとした将来の資金計画に大きな影響を与えかねません。そのため、「緊急予備資金」といった形で準備をしておくことが必要です。緊急予備資金は、できれば生活費の6ヵ月〜1年分は確保しておきたいところです。

緊急予備資金を確保する方法

緊急予備資金を確保するためには、以下のポイントを参考にしてみてください。

 

収入から一定額を貯蓄に回す

毎月の収入のうち、無理のない範囲で一定額を緊急予備資金として積み立てます。

 

専用の口座を設ける

緊急用の資金を通常の口座とは別に分けて管理することで、不要な出費を防ぎます。すぐに現金化できる状態、もしくは現金で準備することが望ましいでしょう。

 

不要な出費を削減

家計簿を活用して支出を見直し、無駄を削減した分を緊急予備資金に充てます。緊急予備資金は「突発的な出費」に備えるためのものであり、現金化しやすい、いわゆる流動性の高い状態で準備をしておくことが望まれます。たとえば現預金や、解約・現金化が容易な金融商品などで準備を行いましょう。

心の中で旅行を

Aさんを説得し、数週間後、大きな箱に入った絵画がBさんの家に届きました。それは彼女が見たとおりの、鮮やかで美しい風景画でした。リビングの壁に飾られたその絵を見たとき、Bさんの目には涙が浮かんでいました「ありがとう。この絵があるだけで、これからの生活が少しずつ楽しみになるわ」。

 

その後、Bさんは毎朝リビングでその絵を眺める時間を大切にしました。「外には出られなくても、心の中で旅行をしている気分になれる」と話す彼女の表情には、どこか穏やかさが戻ってきました。

 

 

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表