長年連れ添った夫婦。もしどちらかが先にこの世を去ったら……。一人で暮らしていけるだろうか、お金は足りるだろうかと、不安になることでしょう。亡くなった配偶者が元会社員である場合、残された側は遺族厚生年金が受け取れますが、そこにはよくある誤解があって……。 本記事では、Aさんの事例とともに、遺族厚生年金の注意点についてCFPの伊藤貴徳氏が解説します。
えっ、遺族年金は4分の3もらえるはずじゃ…70歳夫を亡くした66歳元共働き妻、驚愕。何度見ても信じがたい年金額に「お願い、なにかの間違いだと言って」 【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫の死後受け取れる「驚愕の遺族年金額」

66歳のAさんは、今年70歳を迎えた夫を病気で亡くしました。夫は大手企業に勤め、長年厚生年金に加入していました。Aさんは、夫が亡くなったあとも遺族年金を受け取ることで、ある程度の生活ができるだろうと信じていましたが、受け取る年金額に誤算があったのでした。

 

Aさんの夫は定年退職後は再就職せず、Aさんとともに年金生活を穏やかに過ごしていました。しかし、夫が突然の病で亡くなったことにより、今後は一人暮らしとなります。Aさんは悲しみに暮れていましたが,次第に生活費の心配をするように。

 

以前にみたテレビ番組の遺族年金特集で「夫の年金の4分の3が遺族年金として受け取れる」と理解していたAさん。夫のほうが年上なので、先立たれることを不安に思っていたAさんでしたが、「それならなんとかなる」と考えていたのです。

 

ところが、実際に届いた通知を見て思わず「えっ」と発しました。思っていた金額よりも大幅に少なかったのです。Aさんは、何度も通知を確認しました。なにかの間違いではないかと、すがる思いで年金事務所に問い合わせました。

 

遺族厚生年金の基本知識

遺族厚生年金とは、会社員などが加入する厚生年金保険において、加入者が死亡した際に残された遺族に支給される年金です。基本的に、夫が厚生年金に加入していた場合、その遺族である妻が受け取れる年金額は、夫が受け取っていた老齢厚生年金の4分の3とされています。この「4分の3」という数字が、一般的に多くの人に誤解されやすい点です。

 

Aさんの誤解も、この「4分の3」の数字に基づいていました。テレビでは、おそらく正確に説明していたかと思われますが、年金の仕組みについての理解が浅かったことから、夫が受け取っていた年金の4分の3がそのまま受け取れると思い込んでしまったのです。しかし、実際の遺族厚生年金の計算は複雑で、夫の年金額の4分の3がそのまま支給されるわけではありません。

 

〈65歳以上の配偶者が受け取る遺族厚生年金の額〉

・妻の老齢厚生年金の2分の1と夫の遺族厚生年金の3分の2の合計

・夫の遺族厚生年金(夫の老齢厚生年金の4分の3) 

いずれか多いほう

 

Aさん夫婦は共働きだったため、現在、Aさんも自身の老齢厚生年金を受給しています。その場合、遺族年金と自分の年金との調整が行われ、結果的に予想よりも少ない金額となってしまったのでした。

 

このように、遺族年金の額は一律ではなく、さまざまな条件によって左右されます。夫婦がともに年金を頼りにして老後の生活を計画している場合、どのような条件で遺族年金が支給されるのか、事前に確認しておくことが重要です。年金制度は複雑なためAさんのように「4分の3がもらえる」と思い込んでしまっても無理はありません。

 

もし自分が将来遺族年金を受け取る可能性がある場合は、年金事務所や専門家に相談し、正確な情報を得ることをおすすめします。