弟たちの存在を理由に進路を自ら制限、結婚に不安も
千葉県在住で、都内の介護施設で働いている30代女性のAさん。5歳下の双子の弟はともにダウン症で、生まれつき心臓疾患を患っています。
「弟たちは2人とも小さくて、小学生になっても5歳児のような感じでした」というAさん。弟たちをかわいいと思いながらも、自身が成長するにつれて周囲の目が気になりはじめ、中学生のころには、一緒に出かけることをためらうようになりました。
「弟たちの将来について、両親からはなにもいわれていません。でも、将来は自分が面倒をみなければいけないのかな、と…」
高校では服飾系の勉強をしていたAさんですが、大学は経営学部へ。
「服飾の勉強を続ける道もありましたが、どう転んでも大丈夫なように、経営学部を選択しました。自分で勝手に思い込んで、自分でプレッシャーをかけていたんですね。あとから振り返ると、弟たちをいいわけにしていただけかもしれません。好きな道に進みたいなら、できる方法を考えればよかったのに…」
かつては恋愛観にも弟たちの存在が影響し「頼れる年上の男性」が好みだったといいます。そして結婚には、積極的に踏み出せない部分もありました。
「〈弟たちも含めて受け入れてくれる人でないと、むずかしいのでは〉と思い、積極的になれない部分もありました。障害のある家族が理由で婚約破棄された人の話を聞いて、不安も…。でもいまは、考えても仕方がないし〈結局は2人の問題〉だと思うようにしています」
そんなふうに人知れず悩んでいたAさんですが、30代になり、同じような境遇の人の集まりがあることを知ります。
「一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会という団体を知り、そこが主催するきょうだい児の集まりに参加しました。似た境遇の人たちと初めて話したときは、すごくうれしかったです」
そのようなプロセスを経て、いまは葛藤がありつつも「自分らしく生きていった先に家族の笑顔があるのかなと思うので、まずは自分の幸せを考えていこうと思っています」と語るAさん。
いまは、弟たちと映画に行ったり、飛行機で遠出したりと、弟たちが小さかったときにできなかったことも実現させました。
「望ましいのは、家族みんなが笑って過ごせる未来ですね。弟たちや家族のことを理解してくれる人と出会って、新しい家族を作って、全員で温泉旅行とかに行けたらいいですね」
「うまくいかないのは妹のせい」…自暴自棄になった過去
社会保険労務士として働く30代男性のKさんは、埼玉県の実家で両親と、知的障害、発達障害、自閉症スペクトラムを抱える2歳離れた妹と暮らしています。
大学卒業後は不動産会社に就職。慣れない仕事でさまざまなストレスを募らせていたとき、一緒に暮らしている妹が、睡眠障害から夜中に騒ぐようになりました。Kさんは、仕事の厳しい状況と重なって自暴自棄となり、大学時代の友人へ一方的に胸の内を吐露したメールを送ることもあったといいます。
しかし、そんな時期が2、3年続いたあるとき、Kさんに転機が訪れました。
「勤務先のハードすぎる働き方に疑問を持ちはじめたんです。人生がうまくいかずに不満を抱えるなかで〈なにか資格を取れないか〉と考えるようになり、たどり着いたのが社会保険労務士でした」
その後、社労士の事務所に転職したKさんは勉強に励み、社労士の資格取得を機に独立しました。現在は、自身もきょうだい児として育った立場から、障害施設をサポートする取り組みをはじめています。
「いま、グループホームや放課後等デイサービスなどの運営支援をされている行政書士の方々とつながっています。私も社労士として、そうした福祉施設で働く方の働き方支援ができればと考え、徐々に行動に移しているところです」
そんなKさんには、過去にひとり、結婚を意識した女性がいました。その人とはなんでも話し合う間柄で、妹のことも話していましたが、結婚には至りませんでした。
「社会人になってから、うまくいかないことを妹のせいにしていたんです。自分の人生がうまくいかない理由にしていたんです」
しかし、いまは違う考え方をするようになりました。
「家族のことは、変えられない事実ですし、相手がどう思うかは相手次第なので。自分がくよくよ考えても仕方ない、そう思っています」
大事なのは「親との愛着関係」の構築
AさんとKさんは、将来の同胞(どうほう:障害のある兄弟姉妹)の世話について、親から期待されるような言葉はとくになかったといいます。ただ、Aさんのように、人知れずプレッシャーを感じているきょうだい児の方もいます。
一般社団法人Yukuri-te代表理事で、作家としても活動する小児科医の湯浅正太氏は、子どもにとって大事なのは「安心安全な存在の親との愛着関係」を築くことだといいます。
「子どもは学校生活でさまざまな新しいイベントに遭遇し、不安が生まれます。そこで親に抱きしめてもらったり、一緒に話をしたりすることで、不安を解消します。しかし、親は障害のある子にかかりきりなので、不安が解消できない。その結果、きょうだい児は孤立してしまうのです」
親が子どもたちへ対等に関われるようにするためには、社会的な支援の基盤の構築が必要だと、湯浅氏は指摘します。
「親も子どもたちに平等に関わりたいと思っています。関われないことで自分を責める親も多いのです。だから、社会が家庭を支える必要がある。社会が家庭を支えて、親の心、時間、金銭的余裕を生み出すことで、はじめてきょうだい児がすくすく育つ環境が生まれます。親が余裕をもって個別に子どもたちに関われる環境が作れるよう、社会が家庭を支援する基盤を築くことが重要です」
さらに湯浅氏は、親ときょうだい児が正しい知識を共有することの大事さを訴えます。
「きょうだい児が結婚するときに大切なのは、障害のある家族のことをきちんと結婚相手に伝えられるかということ。世の中には障害を受け入れられない、不安を覚える人もいます。ですが、正確な知識を持っていれば、障害について正しく説明できます。そのためにも、家庭で情報共有をしておくことが大切です」
「親亡きあと」の同胞の生活をどうするか?
同胞のきょうだいである方にとっての大きな不安は、やはり「親亡きあと」だといえます。同胞の生活を守りつつ、きょうだいの方の人生の可能性を閉ざすことのない道筋はあるのでしょうか?
相続問題にくわしい山村法律事務所の山村暢彦弁護士は、このように語ります。
「まず、相続人のなかに判断能力の不十分な方がいる場合、相続手続きを完結させるには〈後見人制度〉という、相続人ご本人の代わりに判断するご親族または専門家を選任する制度を利用する必要があります。亡くなった方の生活収支を把握しているご親族がいればいいのですが、万一疎遠な場合は、後見人の選任申立てに必要な資料が集めにくくなり、手続きの負担は大きくなりがちです。そのためにも、親族間での情報共有が重要になります」
一方で、日本の社会福祉の実情はどうでしょうか?
「これまでの経験上、社会保障制度を利用しながら、なんとか家計のやり繰りをして生活ができている方が多いというのが、法律の現場の肌感覚です。ただし、社会保障を受けるための手続に身近な人の協力が必要になることが多いですし、介護状況や病状が大変な場合には、金銭的な負担が重くなるケースも想定されます。相続財産を活用する場合、上述した通り、後見人等の法的な判断権者の選任が必要になりますので、事前によく話し合って対策を立てておくことが大切です
専門家の方々のお話を総括すると、家族と情報共有しながら、充実した福祉制度を活用し、それでも不安があるときには医療の専門家・法律の専門家を頼りアドバイスを受けることが重要だといえます。
きょうだい児の方が自身の責任感から、自分の人生の選択肢を制限・抑制することなく、あらゆる可能性や選択肢をためらいなく選べるよう、社会全体でサポート、バックアップしていくことが望まれます。
※この記事は、THE GOLD ONLINEとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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