日本は「国民皆保険」と呼ばれる制度があり、すべての国民が健康保険をはじめとした社会保険に加入することになっています。しかし、制度には落とし穴もあって……。今回はAさんの事例とともに、健康保険の仕組みの注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
国民皆保険のはずでは…がむしゃらに働いてきた月収45万円だった27歳元SE、病院での「全額実費払い」に愕然。「人生の中休み」への大きな後悔【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

病院で気が付いた致命的ミス

ある日、Aさんは軽い喉の痛みを覚え、病院に行くことにしました。自宅の近くの内科を訪れ、受付で問診票を書いていたとき、受付の方からの一言に固まります。

 

受付「それでは、健康保険証をお願いします」

 

Aさん(健康保険証……? そういえば前の職場を辞めたとき、返して……。あれ? もしかして俺、健康保険証を持っていない?)

 

なんとAさんは、健康保険に未加入のままだったのでした。

社会保険未加入の事業所

Aさんは「日本は国民皆保険制度のはずでは?」と疑問に思います。Aさんのように「すべての職場で健康保険をはじめとした社会保険に加入できる」と思う人もいるかもしれません。しかし、実際には小規模事業所や一部の業種では社会保険の加入義務がない場合があります。

 

たとえば、従業員が5人未満の個人経営の事業所や特定の業種(農業や飲食業など)では、法律上、社会保険に加入しなくてもいいケースがあるのです。このような職場では、従業員は自ら国民健康保険に加入し、保険料を全額自己負担する必要があります。

 

2024年10月からは従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者にまで、社会保険の加入義務が拡大されました。 これにより、社会保険加入義務の対象外だった多くのパート・アルバイトの人々が、新たに社会保険の対象となったのです。今後の制度の改正によっては、対象となる事業所がより一層増えることも予想されますが、現状、Aさんのように社会保険未加入の事業所で働く場合、健康保険に入っていないと医療費を全額負担しなければなりません。健康保険に加入している場合、一般的に現役世代の方達の治療費は「3割負担」となりますが、健康保険に加入していない場合、全額負担、つまり10割負担となるのです。

 

健康保険に加入するには

もし転職先が健康保険未加入であった場合、住所地の市区町村にて国民健康保険の加入手続きを行う必要があります。国民健康保険料は収入に応じて決定されるため、月々の保険料がどれくらいになるかを確認し、家計にどのような影響があるかを把握しておくとよいでしょう。

 

また、配偶者が社会保険に加入している場合、一定の条件を満たせばその扶養に入ることも可能ですので、状況に応じて最適な選択を考えることが大切です。