(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

 

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【目次】

1. トリプル安回避、日本株の意外高

2. 市場のサイン、素直に読めば「そういうこと」

3. 金融株の動きが示唆するもの

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一大イベントとなった衆議院選挙は与党の歴史的な敗北に終わりましたが、その後のマーケットの反応は多くの市場参加者を驚かせるものでした。特に、ネガティブなはずの「与党の惨敗」という選挙結果を受けての株高は、単に意外なだけでなく、今後のマーケットの新たなトレンドを示唆している可能性があります。


そこで、選挙後の足元の市場の動きを確認しながら、今後のマーケットについて考えてみたいと思います。

1. トリプル安回避、日本株の意外高

■第50回衆議院選挙は連立与党の惨敗となりましたが、その後の日本株は意外な上昇を見せています。政権基盤が不安定化し、タイムリーな経済政策の実施が困難になりかねない与党の惨敗は、株式市場にとってネガティブな材料であることは否定できません。しかし、週明け10月28日の株式市場は小安く寄り付いた後に上昇に転じ、その後は大幅高での引けとなりました。そして、海外投資家が本格的に戻る翌29日の取引でも、日本株は続伸しました(図表1)。

 

[図表1]衆院選前後の日経平均の動き

 

■2016年の米大統領選挙後の米国株の急騰のように、大きなイベントを通過した後の予想外の市場の反応には注意が必要でしょう。というのも、こうした「違和感のある市場の動き」は、単なる取引ポジションの傾きの反動に留まらず、市場の新たなトレンドを示唆するケースが少なくないからです。

2. 市場のサイン、素直に読めば「そういうこと」

■今回の衆院選の結果を受けて、市場では株高、円安、債券安が進んでいます。こうした値動きを通じて、市場はわたしたちにどのようなサインを送っているのでしょうか。一連の市場の反応の中でも「株高、債券安」に注目すると、一つの仮説が浮かび上がります。それは、今回の選挙結果が日本の景気にポジティブな影響をもたらすのではないか、という見立てです。

 

■石破総理はこれまで安倍元総理の経済政策には否定的で、いわゆる財政と金融を駆使して経済成長を促す「リフレ派」とは距離を置いてきました。しかし、今回の選挙結果によって、石破総理の志向する「反リフレ的」な経済政策は、大きく後退せざるを得なくなったと見てよさそうです。更に、党内からの圧力や野党の突き上げにより、景気刺激的な方向に経済政策を大きく転換する可能性が高そうです。

 

■2023年後半以降の日本経済は、実質成長率がプラス圏とマイナス圏を行きつ戻りつしており、国際通貨基金(IMF)は2024年の日本の実質経済成長率は+0.3%に留まると予想しています。そして、日本全体のインフレ動向の先行指標とされる10月の東京都区部消費者物価指数(CPI)は、日銀の政策目標である前年比+2.0%を下回る同+1.8%まで減速しています(図表2)。

 

[図表2]東京都区部のCPIの推移

 

■このままズルズルとデフレに逆戻りしてもおかしくない状況にも見えますが、石破総理が敗れたことで、緩和的な金融政策が長期化する可能性が高まっています。このためか、為替市場では円安が進んでおり、景気やインフレが微妙な局面での拙速な金融引き締めが回避されるとすれば、日本経済や日本株にとっては頼もしい追い風となりそうです。

 

■更に重要なのは、総選挙における野党・国民民主党の躍進です。国民民主党の経済政策のポイントは、減税や社会保険料の軽減を通じた「手取り収入の増加」とされています。この政策の長期的な評価は置くとして、タイムリーであることは間違いなさそうです。というのも、8月の日本の実質賃金は3ヵ月ぶりにマイナスとなり、「物価上昇と賃上げの好循環」が止まりかねない状況にあったからです(図表3)。

 

[図表3]実質賃金総額の推移

 

■選挙結果を受けて、石破総理は「支持の高かった野党の主張を取り入れる」と明言しています。もし、こうした国民民主党の政策を政府・与党が丸呑みするようなら、実質賃金の引上げによる消費刺激を通じて、日本経済や日本株にとってポジティブな政策変更となる可能性がありそうです。

3. 金融株の動きが示唆するもの

■景気浮揚への期待や財政悪化への懸念もあってか、市場金利が上昇しています。株式市場ではこうした流れを受けて、金融セクターの株価が好調に推移しています。選挙前10月25日から10月29日にかけてのTOPIX33業種のパフォーマンスを見ると、1位に証券・商品先物、3位に銀行、5位にその他金融業が入り、金融セクターが並びます(図表4)。

 

[図表4]TOPIX33業種のパフォーマンス上位10セクター

 

■中でも目を引くのが、証券業の上昇で、2日間の騰落率は+4.53%でトップとなっています。こうした動きは、石破総理が自民党総裁選の前に口にしていた「金融所得課税」の検討・導入が困難になったことを市場が好感しているからではないでしょうか。仮にそうであれば、貯蓄から投資への流れが今後も政策的に後押しされ、金融所得の向上を通じて日本経済を下支えするポジティブな効果が期待できそうです。

まとめに

株式市場にとってネガティブと思われた与党の敗北後に、予想外の株高が起きています。過去のマーケットを振り返ると、イベント通過後の想定外の値動きは、その後の新たなトレンドを示唆する場合が少なくありませんでした。そう考えると、今回の与党の惨敗が、日本経済や日本株にとってポジティブに働く可能性が高まっているのかもしれません。特に、金融緩和が維持され、実質賃金の向上をもたらす経済政策がとられ、更に、貯蓄から投資への流れが加速するようであれば、日本株にとっては追い風となる可能性が高そうです。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。

 

白木 久史

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフグローバルストラテジスト

 

 

【ご注意】
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