多言語国家が多い欧州の特殊事情…ドイツは70兆円も国外に流出、隣国と公用語が同じで話が通じやすく、税務当局にバレない預金づくりが容易?

多言語国家が多い欧州の特殊事情…ドイツは70兆円も国外に流出、隣国と公用語が同じで話が通じやすく、税務当局にバレない預金づくりが容易?
(※写真はイメージです/PIXTA)

欧州は国と国が隣接していることもあって、公用語を複数持つ多言語国家が多くあります。同じ公用語を話せることで預金を容易につくることができ、隣国で得た収入は自分の国の税務当局にわからなければ税金を納めなくても問題なしとなってしまいます。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。

タックスヘイブンへ資金が流れたワケ

自国の税率が高いEU加盟国の居住者は、利子所得に係る税負担が低い他の加盟国等に預金をして利子所得を取得し、しかも本国に申告しないという事象が多発しました。

 

たとえば、ドイツは約70兆円という資金が「国外預金等」として流出していました。このような事態に対処するために、自国の居住者の預金が他の加盟国にある場合、その預金情報(年1回定期的)を交換する「EU利子所得指令」が欧州委員会で2003年6月に採択され、2005年7月から施行されました。この指令は、2015年11月10日開催の閣僚理事会による廃止が決定しています。

 

EU利子所得指令により、EU諸国の金融機関から本国に利子所得の通知が行われるようになった結果、欧州にあるタックスヘイブン、EUに加盟していないタックスヘイブンである英国、オランダ両国の海外領土が、オフショア・バンキング・センターとして、EU加盟国居住者の国外に流出した預金の受け皿になったのです。

 

利子所得等租税協定は、EU加盟国以外の欧州各国およびカリブ海等のタックスヘイブンと預金者情報の提供を義務づける内容の協定です。EUは、EU利子所得指令と同様の対策を講じるという観点から欧州に所在する5つの国と利子所得等租税協定の締結をしました。

 

EUが利子所得等租税協定を締結したのは、アンドラ、リヒテンシュタイン、サンマリノ、モナコ、スイスです。またこれら5ヵ国以外に、英国・オランダの海外領土であるアンギラ(英)、アルバ(蘭)、英領バージン諸島、ケイマン諸島(英)、ガーンジー、マン島、ジャージー、モントセラット(英)、オランダ領アンチル、タークスケイコス諸島(英)は、文書によりEU加盟国各国とEU指令に従うことで合意しました。

 

しかし、銀行の秘密保護法を遵守したい国は、情報提供に代えて源泉徴収を行うことを主張し、源泉徴収が情報交換の代替として認められました。このような選択をしたEU加盟国は、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリアの3ヵ国であり、EU加盟国ではないスイスは、利子所得等租税協定において源泉徴収をすることと同様の効果を持つ、留保(retention)という用語を使用して、一定金額の徴収をしました。

 

上述したリヒテンシュタインは、利子所得等租税協定を締結しましたが、リヒテンシュタインの銀行からの顧客名簿の持ち出し事件があり、持ち出された顧客名簿には、多くのドイツ人の名前がありました。

 

この事実は、リヒテンシュタインがEU利子所得指令に反する行為をしたのではなく、個人名義の口座ではなく、財団等を設立して、そこから銀行に預金を行えば、個人預金者ではなくなる方法を採用していました。EUは当時財団等を利用する方法に対処する方法を持ち合わせておらず、改正を後日に行うことになったのです。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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