前回は、分けにくい「土地」の比率が大きい相続財産の分割方法について説明しました。今回は、土地の事情や形態によって使い分けたい「路線価評価」と「時価評価」について見ていきます。

減価要因を含む土地の評価に不向きな「路線価評価」

相続税の申告における財産の評価は、相続税法第22条で「当該財産の取得のときにおける時価による」とされています。しかし、国税庁は、相続税法第22条の時価の画一性・迅速性・簡便性のため、財産評価基本通達を制定し、「財産評価基本通達によって評価したものが時価である」としています。ところが、この路線価評価で行った評価が適正でない場合はどうなるでしょうか?

 

全ての土地において路線価評価で行った価額が適正に行われるとは限りません。例えば(後述しますが)建築基準法の道路に間口が1mしか接しないような土地などはどうでしょうか。

 

路線価評価はある意味簡便な方法ですので、標準的、画一的な土地においては、効果を発揮しますが、このように大きな減価要因を含む土地(間口1mでは建築確認が得られない)の評価方法には不向きです。土地の持つ効用は基本的にはそこに建物が建てられることを本旨とします。つまり、間口1mの土地には原則的には建物が不可ですので、その効用を発揮することが出来ません。国税庁はこれらのことを配慮して、平成4年に下記の「事務連絡」を出しています。

 

【平成4年3月】

まず相続税の申告では、土地の評価は、原則的には路線価が基準とされることは周知の通りであるが、路線価に基づく評価額が「時価」を上回った場合の対応について、国税庁は全国の国税局に次のような事務連絡をしている。

 

路線価等に基づく評価額が、その土地の課税時期の「時価」を上回ることについて、申告や更正の請求の相談があった場合、路線価等に基づく評価額での申告等でなければ受け付けないなどという事のないように留意する。

 

路線価を下回る価額で、申告や更正の請求があった場合には、相続税法上の「時価」として適切であるか否かについて適正な判断を行うこと。

 

具体的には、各種地価動向調査等による当該土地周辺の地価動向を把握し、例えば、当該土地が売却され、その売買価額を根拠として申告等がなされた場合には、他の売買事例との比較から当該土地の売買が適正な価格での取引といえるかどうか判断する。あるいは精通者(不動産鑑定士等)への意見聴取を行うなどして、当該土地の課税時期における時価の把握を行う事とする。

 

と述べられています。しかし①、②ともに1~2回読んだだけでは理解できません(私の読解力が劣っているのかもしれませんが)。

「路線価評価」の専門家は税理士、「時価評価」は…?

私なら①を次のように記載します。

 

「相続税の申告において土地等の場合、財産評価基本通達に基づく路線価評価で算定した価額が適正な時価を大巾に超える高い評価額となる場合には、必ずしも路線価評価で申告しなくてもよい」

 

つまり、適正な時価が分かるのであれば、それで申告しても構わないと言っているのです。

 

ここで問題が2つあります。

 

●適正な時価とは何か

●路線価評価と時価の差異をどのように知るか

 

このことに気がつく人は誰でしょうか。納税者本人にも気づいてもらいたいのですが、それはかなり難しいと言わざるを得ません。ここはやはり、相続税申告の専門家である税理士さんが最も適しています。ところが、税理士さんは路線価評価の専門家ですが「時価評価」の専門家ではありません。

 

仮にある土地の評価が下記のような場合です。路線価方式でやってみたところ、特に間違いがありません。しかし、親しい不動産業者の社長に意見を聞いてみるとこの土地は1億円では売れないとのアドバイスでした。

 

※誰が、この5千万になるのか気付くかがポイント!

 

もし、この土地を1億円で申告したら過大な納税をすることになります。そのときは鑑定評価で申告することが妥当です。但し、鑑定評価の内容にもよりますが、税務調査により否認されることもありえます。そのとき、不動産鑑定士に求められるのは、納税者への説明責任です。税理士と共に税務署への真摯な対応が必要です。

 

時価評価の専門家はやはり不動産鑑定士の役目だと思います。つまり、税理士は過大な納税を避けるためには、相続税の申告業務のネットワークの中に不動産鑑定士が必要だと思うのです。(手前味噌になりますが)

標準的画地は「路線価評価」のほうが有利だが・・・

では、この路線価評価と時価が違うのはどんな土地でしょうか。

 

1.普通の土地(鑑定評価では標準的画地といいます)

路線価評価が有利です。鑑定評価の必要はありません。何故なら、相続税路線価は公示価格の80%程度の評価額に抑えられて設定されているからです。

 

仮に公示価格が1㎡当たり30万円の土地(整形地で面積が120㎡)があるとします。

時価評価額は3,600万円となります。しかし、路線価評価額は1㎡当たり24万円となりますので、総額は2,880万円になります。つまりこの路線価評価で申告すれば良いのです。時価よりも720万円低い価格で申告が可能です。

 

しかし、これから例示するように、間口が2m未満とか地形が極めて不整形などの条件が劣る土地が世の中にはたくさん存在します。これらの土地は、土地の価値の所以である建築基準法上は建物が建てられない等の欠陥商品になります(ちなみに私は、土地の価値の所以はあくまでもその土地に建物が建てられるかどうか・・だと思っています。つまり人が土地を多額な価格で購入する理由は、その土地にマイホームやアパートなどを建てたいからです。決して駐車場のために何千万円も出しません)。

 

2.間口が2m未満の土地

このような土地が目の前に現れたら、まずは不動産鑑定士に相談することです。

1のケースは標準的な画地の評価です。仮にこの土地の評価額を出すとしたら、標準的画地との個別的な格差はどのくらいあるかを検証します。紙幅の都合上細かい項目は控えますが、標準的画地を100とすると、概ね30~40ぐらいの価値率になります。そうすると鑑定評価による時価は30万円/㎡×0.3×120㎡=1,080万円程度になります。これと路線価評価を比べ、かつ、鑑定評価の信頼性が高ければこの評価額で申告が可能になるのです。

本連載は、株式会社アプレイザルの代表取締役・芳賀則人氏のブログ『芳賀則人の言いたい放題!』から抜粋、再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒https://t-ap.jp/blog/cat_blog/column/

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