「忘年会でビールをこぼされても大丈夫」→真冬に“意外な商品を大ヒットさせた”クリーニング店のPOP、その予想外の戦略とは?

「忘年会でビールをこぼされても大丈夫」→真冬に“意外な商品を大ヒットさせた”クリーニング店のPOP、その予想外の戦略とは?
(※写真はイメージです/PIXTA)

2024年10月から最低賃金が全国平均で1,054円に引き上げられ、中小企業には賃上げの負担が増し、「賃上げ疲れ」が見られるようになっています。持続的な賃上げには業績向上が不可欠ですが、それだけでは現代の厳しい環境では生き残れないと、社員50名の新聞販売店を23年間経営し、多くの企業を支援してきた米澤晋也氏は指摘します。本稿では、米澤氏が、これまでの知見を基に、中小企業が“賃上げマラソン”を走り抜ける方法について、具体的な事例を交えて解説します。

【成功事例】真冬にものすごい数の「防水スプレー」が売れたワケ

残る業績対策は「イノベーション」ということになります。これが冒頭で紹介した「生活者も気付いていない欲求を創造すること」を指し、中小企業が生きる道であると同時に、持続的な賃上げ策の抜本策だと考えます。


イノベーションという言葉がひとり歩きをしており、解釈が曖昧になっているので、ここでは「感性価値創造」と言い換えることにします。「欲しい」「素敵」という気持ちを喚起する商品・サービス、売り方、ディスプレイなどの創出を意味します。

 

感性価値創造には、新たな市場を開拓する潜在能力があります。可能性に制限がない「プラスサムゲーム」なのです。

 

私の知り合いに、見事な感性価値創造を行った社長がいるので事例として紹介します。関東地方でクリーニング店を営む友人が「真冬に防水スプレーを売った」という事例です。

 

1年の中で、最も防水スプレーが売れるのは梅雨時期です。その次は台風シーズンで、最近では、豪雨が降る真夏にも売れるでしょう。一方、最も売れないのが冬ですが、同店では、12月と1月に、ものすごい数を売りました。どのように売ったのでしょうか?

 

12月と言えば忘年会が、1月と言えば新年会がありますね。飲み会では頻繁にお酌が交わされますが、そこでお酒をこぼされ服を汚した経験は誰にでもあると思います。しかも、そういう場には、いつもよりも良い服を着ていくと思います。

 

そんな場面を想像し、店主は次のようなPOP(商品の特徴などが書かれたカード)を作りました。

 

「忘年会でビールをこぼされても大丈夫」

 

年が明けたら「新年会でビールをこぼされても大丈夫」に差し替えました。

 

見事な実践だと思います。POPを作らなければ、お客様は防水スプレーの新たな使い方を知ることはなかったでしょうから、店主が新たな価値を創造したということになります。この実践からは、感性価値を創造すれば、市場は新たにつくることができるという洞察を得ることができます。

感性価値創造のために“数多くの人材は要らない”

話を賃上げに戻しましょう。

 

賃金の原資は売上総利益(粗利益)です。米国の経営コンサルタント、アレン・W・ラッカーが、アメリカの製造工業統計データを分析した結果、総額人件費と比例関係があるのは、売上総利益ということを明らかにしました。売上高でも経常利益でもありません。売上総利益が増えれば、総額人件費が上がるのです。これは、アメリカの企業に限ったことではなく、世界中の企業に当てはまります。

 

ただし、売上総利益に比例して社員数も増えれば、総額人件費は増えても、社員1人あたりの賃金は増えません。そこで労働生産性を改善する必要に迫られるのですが、そのための最も有効な方法が感性価値創造です。

 

感性価値創造のために数多くの人材は要りません。創造性豊かな1人がレバレッジとなり、人数を増やさず大きく稼ぐことができる、労働生産性の高い企業に進化するでしょう。

 

およそ10年後に最低賃金を1,500円にするということは、1年あたり約50円の賃上げが行われることになります。

 

まさに賃上げマラソンです。完走するためには、感性価値創造をスタミナ源として走る、エネルギー効率の良い経営が求められると考えています。

 

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