「大家から指定日までに出て行けと言われ、納得できない」
不動産の問題を多く扱う筆者の事務所では、「立退き」についての相談も多く寄せられています。圧倒的に多いのは大家側の相談がですが、ときには賃借人側からの相談が寄せられることもあります。
賃借人の方の相談内容のほとんどは「大家から一方的な立退き要求をされて困っている、腹を立てている」というもので、具体的には、
「突然〈この日までに出て行ってください〉といわれて納得できない」
「こちらも仕事や生活の都合がある以上、急な立退きの要求には対応できかねる」
といった内容です。
いきなり大家から「立退け!」と高圧的に言われれば、賃借人のほうも「急に立退けるか!」といった、攻撃的な反応になるでしょう。
やはりこれは、大家側の対応に問題があるのではないかと思われます。
不動産会社に営業をかけられ、その気になった大家が…
ではなぜ、大家側が突然立退きを迫るような事態になるのでしょうか?
それは、建物の老朽化に伴う建て替えの立退き要求を、大家側が無計画に行うことが原因です。
「そろそろ建て替え時だな」と考え始めた時点で、更新の時期に「この建物も古くなってきたから、次の更新までに退去してもらえないか、検討しておいてほしい」などと伝え、長いスパンで賃借人とコミュニケーションしておくことが重要なのです。
賃借人と大家との間に管理会社が間に入っていることも多いですが、その場合は管理会社に「近いうちに建て替えを検討したいので、退去についてそろそろ伝えておいてもらえますか?」と依頼すればいいでしょう。
このように、きちんと順序を踏めばいいのですが、多くの場合、不動産会社から建て替えの営業を受けた大家がその気になり、いきなり計画を強行しようとすることがトラブルの原因となっているケースがほとんどなのです。
賃貸契約に関する現在の法律は、賃借人側が有利になっているのは事実ですが、それでも、毎日暮らしている部屋からいきなり出るように言われては、賃借人としても困惑してしまいます。
①賃借人に、いきなり要求を突きつけない
スムーズな立退きを実現するには、大家は立退料の準備をするだけでなく、穏便な姿勢を保ちながら、貸借人側のスケジュールに配慮し、出ていく期間をきちんと確保したうえで話を進めることがポイントになってくるといえます。
揉めているケースはたいてい、大家側が賃借人へ一方的に要求を突き付け、賃借人が困惑し、思い通りにならない大家が怒りを募らせ、賃借人の態度が硬化し…というパターンが多いのです。
トラブルへの発展を回避するには、まず相手の事情をきちんと考えたうえで提案していくことをおすすめします。
②賃借人が納得する移転先を準備できるかどうか考える
2つ目は、現実問題としての「損得」の視点です。
立退きをするにあたり、立退料はもちろんですが「次の物件の良し悪し」も重要となってきます。例えば、大家が紹介する代替物件が、ほぼ同じエリアにあり、ほとんど生活動線も変わらず、同程度の賃料の新しい部屋なら、賃借人が退去してくれる可能性は高いでしょう。
しかし、近年の不動産市場は賃料も高騰しています。同じ賃料では同じエリアに部屋が借りられないなら、代替物件は紹介できません。そうなれば賃借人のほうも「出ていくのはイヤ」と言い出す事態になりかねません。
これを避けるためにも、賃借人にどんな代替物件を引き当てられるのかも、非常に重要になってくるといえます。
③賃借人のスケジュールに考慮する
3つ目は、1つ目とも関連しますが、賃借人側のスケジュール的な余裕の考慮です。
立退料以外の経済的な負担には変わりはないのですが、実質的に賃料を減らすため「フリーレント」の期間を設けます。具体的には「退去前の最後2~3ヵ月程度は家賃はいらない」といった感じで調整を図るという手法があります。
金銭的負担が重要なのは当然ですが、スケジュールを軽視したことで賃借人を怒らせてしまい、弁護士に駆け込まれるケースもあります。
当然ですが、貸借人に対して思いやりを持った対応をしないと、けんかになってしまうことがしばしばあります。
筆者が賃借人側から立退きの相談を受けたときによく聞くのが、
「急に『引っ越せ』と言われたが、こちらもどうしていいか戸惑っている」
「高圧的な態度で『出ていくのが当たり前だ』などといわれ、腹が立っている」
「ペットを飼っているが、近隣にペット可の代替物件がなくて困っている」
といったたぐいの話です。
逆説的ではありますが、「入居者のほうに動いてほしい」「立退き料も低く抑えたい」と思うなら、強制力をもつ裁判や強制執行でどうにかしようとするのではなく、ほかのポイントを工夫していく必要があるといえます。
(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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