地元で起きた大地震
沢田健さん(仮名/当時52歳)は都内に暮らし、フリーのウェブデザイナーとして生活しています。年収は400万円程度。収入は不安定で余裕はありませんが、独身の沢田さんにとっては自宅で自分のペースで仕事ができ、生活に困らない程度には収益を得ていました。
そんな生活を送るある日、沢田さんの仕事中に大地震のニュースが飛び込んできたのです。震源地は沢田さんの実家のある地方です。
「うちの実家は大丈夫だろうか……」すぐに実家に電話をかけましたが、繋がりません。
不安に思いながらテレビをつけると、より詳細な地震の被害情報が報道されてきました。テレビには沢田さんのよく知る地元の変わり果てた様子が映され、沢田さんは大きなショックを受けます。
実家には母、幸子さん(仮名/当時83歳)が住んでいます。父は数年前に病で亡くなっているため、母はひとり暮らし。沢田さんは実家の母に電話をかけ続けますが、自宅の電話も携帯電話も通じません。
その日は何度連絡しても母にも地元に残っている友人にも繋がらず、眠れぬ夜を過ごすことに。
そして、翌日。友人とやっとのことで連絡が繋がりました。母や近所の人も全員無事で、避難所生活をしているということがわかり、沢田さんは安堵したのでした。
地元に戻って目の当たりにした、実家の悲惨な状態
地震から1ヵ月が経ち、ライフラインも復帰し始め、避難所から徐々に人が戻っていくことになりました。交通機関も復帰しはじめ、沢田さんもようやく地元に戻り、高齢の母の顔を見ることができました。
沢田さんは家財が散乱する自宅内を片付け、自宅の損壊を確認していました。壁が崩れてしまっていたり、基礎のヒビや床が傾いていたり、あちこちがダメージを受け、自治体からは半壊認定を受けています。トイレは断水で溢れかえり、風呂の排水管の修繕もできていないため、母は避難所生活を続けていました。
そして、近所の工務店に傷んだ自宅、設備の修繕費の見積もりを取ったのですが、500万円ほど必要になるとのこと。
「地震保険くらい入っているだろう……」そう思っていた沢田さんでしたが、沢田さんの実家の火災保険には地震保険が付保されていなかったのです。保険料が高いからと、日々の暮らしで精一杯の母は、未加入のままでいました。県や自治体から支援金として受け取ることができるのは70万円程度。これでは排水管の復旧程度しかできません。
母の年金は父の遺族年金と合わせて毎月14万円ほど、預金もほとんどない状態です。母は「家に帰りたい」と泣きじゃくります。しかし、住むことができる状況に復旧するにはあまりにお金が足りません。
災害の復旧のため、ローンも有利な条件で組むことができます。しかし、当時の沢田さんにとっては自分が生活していくだけで手一杯。老後のための資産形成も考えなければならない年齢でローンを組むのはあまりにハードルが高いものです。
また、母が地元でひとり暮らしをしているだけで、自分も都内に暮らしているため戻る気はありません。
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